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第12話

 それはあくまでも偶然だった。  昼休みに、音楽準備室へと写真部で使う暗幕を借りに行った時だった。  音楽準備室にある暗幕は防音のために使われることもあるが、普段はあまり使われないので、俺達写真部が本格的に現像する時に暗室を作るため、たまに借りることがある。 「あっ! やだっ……」  ずしっとする暗幕を抱き抱えて部屋を後にしようとした俺の耳に、誰かの喘ぎ声が聞こえてきた。 「ん……?」  どうやらその声は、隣の音楽室から聞こえてきたようだ。 (昼休みに音楽室でね……大胆なことで)  別に人の濡れ場に興味のない俺は、そのまま準備室から出て行こうとした。  すると……。 「やだって言う割には、ここは嫌がってないよ?」 「あっ、馬鹿……!」 (え……どっちも男?)  二人の会話はどちらも、男だった。  隣でヤッているのが男同士だとわかった途端、俺の好奇心が膨れ上がった。 (少しだけなら……いいよな)  俺は隣の二人に気づかれないように、そっと音楽室へと続くドアを開けてみた。  ドアの隙間から覗いて見ると、ピアノの向こう側から誰かの生足が見える。 (おっ、綺麗な足。アレなら顔もきっと美人だろうな)  俺がそんなことを思っていると、その足の間に顔を埋めていたもう一人の男が身体を起こした。  その男の顔を見て、俺は驚いて声を出しそうになる。  なぜならそこには、親友である千歳の姿があったからだ。 (千歳が……男と? 相手は……?)  以前は女との噂が絶えなかった千歳が、まさか男と寝てるなんて、さすがに俺も気づかなかった。  相手の顔を俺が確認しようとした時だった。 「そろそろ入れてもいいよな? 深海」  千歳の言葉に、一瞬、俺の思考が止まる。

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