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第14話

 千歳達の関係を知ってから数日が経ったある日。  その日はとにかくツイていなかった。  朝の占いが最下位だったのは、まあいいとしよう。  今日は亮太が朝練で迎えにこなかったため、寝坊してチャリで行こうとしたらパンクをしていた。  仕方なく一駅を電車に乗れば車両トラブルで結局、遅刻。  しかもよりによって、閉じ込められた車内では化粧の匂いをさせた女子高生がぴったりとくっ付いてきていた。  これが男だったら、閉じ込められることも苦じゃなかったんだけど。  そして、極めつけが……欲求不満だ。  ここ数日、俺は良さそうな相手を見つけることが出来ずにいた。  最後にヤッたのはナオが相手の時だ。  そして、これ以上にツイていないことなんてないと思っていたのに、本当の災難はこれからやってきたのだった……。     ◆     ◆     ◆ 「カズ、今日の放課後だからな!」  いきなり、昼休みに亮太にそう言われて、俺は何のことだかわからなかった。 「何が?」  俺が聞き返すと、亮太は驚いたような表情をして、隣にいた千歳が呆れたように言った。 「亮太、お前、和彦に言ってなかったのか?」 「言ったと思ったんだけどな」 「だから、何を?」  二人だけで納得されても、俺には何のことだかまったくわからない。  俺が再度問いかけると、亮太の代わりに千歳が答えてくれた。 「今日、亮太が俺の紹介した女の子と会うんだ」 「それで?」 (まさか、そのことが楽しみで、わざわざ俺に宣言したってことなのか?)  そう思って俺が呆れていると、千歳の口からとんでもない発言がでた。 「それで、和彦にその子のことを見極めて欲しいんだと」 「はあ?」  亮太の付き合う相手を俺が見極める?  冗談じゃない。女に興味のない俺に何を見極めろって言うんだ。 「なんで、俺が……」 「頼む、カズ!」  俺の言葉を亮太がすごい勢いで遮った。  そして、顔の前で両手を合わせ頼み込んでくる。 「今まで俺、失敗ばかりしてるからさ……客観的にカズの意見が欲しいんだ」 「亮太……」  真剣な亮太の表情に、俺はむげに断ることが出来ずに戸惑う。 「亮太も本気なんだからさ、和彦も協力してやれよ」  そう言って、何も知らない千歳が俺の背中を叩いてくる。  俺が女に興味を持てない性癖だと、二人には話していないのだから仕方ないかもしれないが。 「でも、俺には……」  無理だと告げようとした矢先、千歳のスマホから音が鳴る。 「おっ、メールだ」  そう言って、千歳はメールをチェックして、すぐにスマホをしまう。 「悪い、俺、次の時間は保健室ってことで誤魔化しといて」  そう言って、今度は千歳が顔の前で手を合わせて頼んできた。 (こいつ……今のメール、会長からだな)  俺は呆れた視線を千歳へと向けた。  この数日で、時折、いつもと違う受信音で千歳のスマホに届くメールが、会長からの物だということを、俺は知った。  そのメールが届く度に、千歳は一言告げてふら~っと教室を抜け出し、しばらく帰ってこない。  最初は何をしているのか知らなかったが、この前『保健室へ行く』と言って、昼休みに消えた千歳が図書室で会長とヤッてる姿を目撃した。  つまり、あの千歳に届くメールは、会長からのお誘いということなんだろう。 「じゃあ、俺急ぐから、言い訳頼むな」 「おい、千歳!」 「今回くらい、亮太に付き合ってやれよ!」  俺の呼び止めも聞かず、千歳はそう言うと嬉しそうに教室を出て行ってしまった。  こっちは欲求不満でイライラしてるってのに、自分はこれからお楽しみかよ……。 (今度、千歳を襲ってやろうか? 会長を抱いてるってことは男も平気なわけだし) 「カズ~……」  俺が、千歳を襲うという物騒な計画を考えていると、亮太が泣きそうな声で俺を呼ぶ。 「どうしても、一緒に行くの嫌? 今回だけは、カズにも来て欲しいんだけどな」 (ああ、もう……)  そんな捨て犬の縋るような瞳でうなだれるなよ。 「……仕方ないな」  俺は大きくため息を吐いた。 「今回だけだぞ」  俺がそう言うと、亮太は途端に笑顔になり俺に抱きついてきた。 「ありがと、カズ。大好き~!」 「はいはい……」  俺は呆れながらそう答え、亮太の後頭部をポンポンっと叩いた。  遠慮もせずに抱きついてくる長身の亮太に苦しさを感じながらも、俺はしばらく亮太の自由にさせてやった。  本当なら、この時点で俺は気づくべきだった。  なぜ、千歳があんなにしつこく亮太に付き合ってやれと言ったのか。  なぜ、俺が一緒に行くと言っただけで亮太がここまで喜んだのか。  そのことに、少しでも疑問を抱いていれば、あんなことにはならなかったのかもしれない……。      ◆     ◆     ◆

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