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第17話

 俺はイライラしながら、繁華街を歩いていた。  亮太に付き合わなければ、今日あたりはいい男を見つけて楽しむつもりだったのに……。  よりによって女にベタベタ触られて、あげくに亮太なんかに怒鳴られて、本当についてない。 (もうすぐ十一時か……。今日は週末だから、まだ相手を見つけるには間に合うかな)  そう思い直して、俺はその手の店が多い方へと進路を変えた。  やっぱり俺の予想通り、平日に比べるとまだ遊んでいる人達が多い。  俺は辺りが見渡せる所に立つと、周りを観察するように見回してみる。  なるべくなら二十歳前後……気の弱そうな、俺が主導権を握れそうなタイプ。 「ん……?」  ふと、一人の男と目が合った。  俺がニコッと微笑むと、相手は慌てたように俯いてしまった。 (理想のタイプ、発見)  俺は、その男へと近づき声をかける。 「ねぇ、お兄さん。これから時間あるなら、俺の相手してくれない?」 「えっ……?」  俺の誘いにその人が驚いていたが、俺は気にせず言葉を続ける。 「俺のこと……抱いてよ」  顔を近づけて吐息混じりにそう囁くと、その人は顔を真っ赤にさせて少し悩み、ゆっくりと頷いた。  俺は相手の腕に自分の腕を絡めて、近くのホテルへと向かって歩き出した。 (ここら辺なら、男同士でも使えるところがあったはずだ)  そう思ってそのホテルに入ろうとした時、俺は反対側から来た人物の姿を見て驚いた。 「りょ……亮太」  俺に気づいた亮太も、驚いた表情で立ち尽くしていた。  でもすぐに、入ろうとしていた建物と俺の横にいる男を見比べて、いきなり俺の腕を掴んでくる。 「ちょっと、痛いって! 亮太!」 「そんなのどうでもいい! 何やってんだよ、カズ!」  いきなり始まった俺達の修羅場に、お兄さんはどうしていいかわからず狼狽えている。  そして、 「あ……ごめんなさい!」  そう言いながら、深々と頭を下げて、その場をすごい勢いで走り去ってしまった。 「あっ、おい!」  亮太が逃げた男を呼び止めるが、俺の方をなんとかするのが先だと思ったようで掴んでいる手の力は一向に弱まらない。 「いい加減に離せよ!」  亮太の腕を引き離そうと俺は暴れるが、無駄に馬鹿力な亮太の手はなかなか離れない。  それどころか、さらに強い力で掴まれる。 「駄目だ! 離したら、またカズが馬鹿なことするだろ!」 「馬鹿なことって何だよ!」 「こういうことだ!」  ラブホテルの前で男二人が修羅場ってるせいか、周りの通行人が注目し出してきた。 (このままじゃ、まずいな……) 「あ~、わかったから、とりあえず来い!」  とにかくいつまでもホテルの前で騒ぐわけにもいかないので、俺は逆に亮太の腕を掴みホテル内に入ろうとした。 「ちょっと、どこ行くつもりだよ!」  当然、亮太は抵抗するがこんな所で好奇の視線に晒されるよりはマシだ。 「こんなとこで、晒し者になるつもりか! 話すなら、人目につかないとこがいいだろうが」  そう怒鳴ると、俺は強引に亮太の手を引いて中へと入っていった。  亮太もいまさらながらに周りの状況に気づいたのか、不機嫌そうではあったがおとなしくついてきた。 「ずいぶんと慣れてるんだな」  下で受付を済ませて部屋へと入るなり、亮太がそう呟いた。 「まあね」  一言だけ答えて、俺はさっさとベッドへと腰を下ろす。  亮太は少し躊躇いつつも、俺と距離を取ってソファへと座った。 「…………」  沈黙が部屋の中へと広がる。  それに耐えきれず、俺は口を開いた。 「なんで亮太があそこにいたわけ?」  俺が聞くと、亮太は俺の方を見ようとはせず自分の足元を見ながら小さく喋り出す。 「綾さんから、カズが出て行ったって聞いて……途中で見失って探してたんだよ」 「俺を追いかけてきたわけ? 女二人、置いて?」  俺が呆れたようにそう言うと、亮太は怒ったように言い返してきた。 「仕方ないだろ!……なんか、今日のカズ様子がおかしいし……幼馴染みの心配しちゃ悪いのかよ」  幼馴染み……か。  あまりに近くに居すぎて、一緒に居るのが当たり前すぎて、言えなかったことがある。 「……俺の様子がおかしかったって、どこがだよ?」  覚悟を決めて、俺は亮太に聞いてみた。  確かに綾さんといた時の俺は無理をしていたけど、きっと亮太が言いたいのはそのことじゃないんだろう。 「……さっきは男に肩なんか抱かせてるし……今だって、あの男と……」  俺があの男とここに入ろうとしていたことを思い出したのか、亮太の頬が僅かに赤くなった。  そんな亮太を見ると純粋で可愛いなと思う反面、その純粋さを踏みにじってやりたい衝動にかられる。 「……お前の言う『様子がおかしかった俺』が……本当の俺なんだよ」 「……え?」  俺の言葉が理解出来なかったのだろう。  亮太は意味がわからないと言った表情で俺を見てきた。 「俺……男相手じゃなきゃ、勃たないんだよ。だから、彼女は作れない」  そう告げた瞬間、右手の小指が締め付けられる感覚がした。 「…………」  俺の告白に亮太は目を見開き、声も出せずに驚いていた。

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