16 / 20

第16話

 軽く食事をした俺達はその後、綾さんのバイト先であるクラブへと行くことになった。  綾さんがそこのスタッフだったこと、俺達が私服を着ていたおかげで身分証の確認も何もなく、顔パスですんなりと中へと通される。  まあ、亮太はガタイもいいし、俺も大人っぽく見られるタイプだけど、いくら週末で混んでいるとはいえ、チェック甘すぎだろ。  そして今、俺は綾さん達の誘いを断り、一人ホール隅のカウンターでモスコミュールを飲んでいた。 「はぁ……」  気がつくと疲労からか、ため息が零れる。  なんで俺が亮太とWデートらしきものをしなきゃいけないんだ。  しかも、よりによって女の人の相手をさせられるなんて。  だが、亮太は俺が綾さんと一緒にいるのを見て、どこか楽しそうだ。  昔から亮太は、俺にずっと『彼女が出来たらお互いに言おう! そして、四人でデートしような』と、言い続けてきた。  だけど、俺はその約束を守ったことはない。  Wデートに憧れている亮太からしてみれば、今回それに近い状況になって嬉しいんだろう。  でも、たぶん俺には亮太の望むようなWデートなんてしてやることは出来ない……。  そう思いながら、子供のころに強引に約束を結ばされた右手の小指を、俺はじっと見つめた。 『女を好きになれない』  と俺が言えば、亮太だって諦めるんだろうけど、ささやかな亮太の楽しみを壊してしまうような気がして、その一言が言えずにいる。 「言えたら楽なんだろうな……」  そう呟いて、グラスの残りを一気に飲み干す。 「いい飲みっぷりだね」  いきなり声を掛けられ振り返ると、そこには三十代半ばくらいの男の人が立っていた。  こんな音楽がうるさいクラブよりも、バーとかの静かな方が合いそうな人だけど。 「隣り、いい?」 「はあ……」  断る理由がないから、俺はとりあえずそう返事をした。 「これと同じのを追加で」  男は俺のグラスを指差して、カウンター内の店員に言う。 「あの……」 「奢るよ」  そう言ってる間にも、その人によって俺の前には新しいグラスが置かれる。 「乾杯」  男が自分の持っていたグラスと俺のを軽く合わせ、口にする。 「あ、ありがとうございます」  一応、礼を言って俺もグラスを手に取る。 「さっきからここにいるけど、一人なの?」  その言葉に、俺はこの場に似つかわしくないこの人を理解した。 (ナンパか……)  若いやつを漁るなら、バーよりクラブに来た方が確実だもんな。  確かに、この人なら男もイケそうな感じだし。 「いや、友達とかと……」  普段なら、もっと駆け引きを楽しんでから誘いに乗れるんだけどな。  さすがに、亮太達と来てる今日は無理か。 「ふーん。あまり楽しめてないみたいだ」 「まあね」  俺がそう答えると、男の手がそっと俺の肩へと回される。  そして、耳元に唇を寄せて囁かれた。 「じゃあ、これからどこか行かない?……君って、そうだよね?」  やっぱり同類ってのは、すぐにわかるもんなんだなぁ。  残念、いつもなら一緒に行けるんだけど。 「せっかくの……」 「カズ!」  俺が丁重にお断りしようとした時、いきなり亮太の大声に遮られた。 「亮太……」 「何やってんだよ!」  そう言って腕を引かれ、男から離される。 「俺の連れになんか用ですか?」  亮太が、不機嫌そうに男性に言う。 「なんだ、男連れか」  それだけ言うと、男はその場からいなくなってしまった。 「一人でいると思ったら……何やってんだよ!」 「何やってるって……話してただけだろ!」  いきなり怒鳴られたことにムッとして、俺は亮太に言い返した。  だが、亮太も納得出来なかったようで、さらに反論してくる。 「男に肩なんか抱かれて、どこが話してただけだよ!」 「なんだと……!」  段々と自棄になってきた俺達を香織さんと綾さんが止めに入る。 「亮太くん、和彦くん」 「それくらいにしないと、二人とも目立つよ」 「……」  二人に止められて、俺も亮太も少し落ち着きを取り戻す。 「……行こう、香織さん」  そう言って亮太は香織さんを連れて、移動していく。  なんなんだよ。  だいたい、俺は亮太が付き合う女を見にきただけなのに、なんで俺が女とデートしなきゃいけないんだ! 「カズくん、機嫌直しなよ」  俺の怒りが表情に出ていたのだろう。  宥めるように綾さんが言いながら、俺へと身体を寄せてくる。 「ねぇ……二人でどこか行かない? 香織と亮太くんもいい感じだし」  綾さんの女性特有の甘い香りと柔らかい身体が、俺の腕にまとわりついてくる。  ……やっぱり、無理だ。 「私、カズくんとなら……してもいいな」  耳元で吐息とともに囁かれて、俺の身体が嫌悪感で一瞬、震える。  そして次の瞬間、俺は綾さんを振りほどいていた。 「俺に触るな!」 「カズくん……?」  突然の俺の変化に、綾さんが驚いた表情を見せる。  だけど、もう限界だ。 「……すみません。俺、帰ります」  そう言うと、俺はそのまま出口へと向かう。 「え、ちょっと!」  後ろから慌てた綾さんの声が聞こえたが、俺は振り返ることはしなかった。

ともだちにシェアしよう!