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どうしてこうなった。
ーー 望月さんと出会う3日前のこと。
いつものように大学で講義受けていた。
講義が終わって、うなだれるように頭を抱える。
その日の俺は大ピンチだった。
やべー、今月の支払いどうしよう。。
すると頭上から声が聞こえる。
「……光ちゃん?大丈夫?」
俯いていた顔を虚ろに上げると唯一の女友達。
奈津美が心配そうに立っていた。
『なづみいぃ……聞いてくれよ。
俺っ、居酒屋クビになった…っ…!!』
「え、クビ!?何やらかしたの!?」
『お客さんに水を……ぶっかけた。
たしかにやり過ぎたとは思うけど!!
で、でも…だからって、クビなんてっ!
それに俺だけが悪いんじゃないんだよ!!
あの酔っぱらいが悪いんだ!!』
机を叩きながら奈津美に訴える。
すると奈津美が目を見開いたかと思えば、腹を抱えながら大爆笑した。
「またセクハラされちゃったの!?
でもそれは毎回のことじゃない〜?」
『昨日はガチでヤバかったんだって!!
だって、股間とか触ってきたんだよ!?
しかもその後さ?
トイレに連れて行こうとかするし!!』
昨日のことを思い出し背筋がブルっと震えた。
「ふふ、なるほどねぇ〜?
それで近くにあったグラスで水をぶっかけちゃってことかぁ。」
その光景が目に浮かんだように奈津美が納得して頷く。
「まぁ、いい機会じゃないの?
だって酔っ払いのセクハラに困るって言ってたじゃない?
それに朝も夜も働いてて…
さすがにこのままじゃぶっ倒れちゃうわよ?」
呆れたように言うものの、どこか心配したような眼差しを送る。
しかし俺は小さなため息を吐いた。
『良くねぇよ……
育ち盛りの弟と妹がいるんだから。
まあでも妹はいいとして……
瞬はさ?俺と一緒に暮らしてる訳だから…』
そう言うとまた深いため息を吐いた。
そして言葉を続ける。
『てかさ?
今時の高校生って金がかかるんだよ。
だからって母さん達は当てにならねぇし。
それに新しいバイト探すの大変じゃん?
俺の大嫌いな面接とかあるし。
あああ。ほんと……嫌だ嫌だ…っ…!!』
切羽詰まって頭をぐしゃりと掻いた。
そしてまた机にうなだれる。
すると奈津美がひらめいたように手を叩いた。
「弟くんって高校生なんでしょ?
ならバイトさせればいいんじゃん!!
そうすれば一人で負担しなくていいでしょ?
光ちゃんは今までずっと頑張ってきたんだから。」
しかし俺はその言葉にバッと起き上がり、首を大きく横に振った。
『だめ、それは絶対ダメっ!!
うちの瞬にバイトなんて早すぎ。
まずアイツは世間知らずだから。
でも顔はイケメンで優しすぎるから困るんだよなあ。
だからバイトでもしてみろ!!
俺……そっちの方が心配でぶっ倒れるから!!』
興奮したように奈津美の顔を見上げると、頬を引きつらせていた。
「ハァ……お兄ちゃん。
いつもののブラコンですかーい。」
奈津美が明らかに引いた表情で俺に尋ねた。
しかし俺は聞こえないフリをし、また机にうなだれた。
俺には3つ離れた弟と小学4年の妹がいる。
ちなみに妹は俺の母親が再婚した相手の連れ子。
血は繋がってはいないけど、俺にとっては可愛い妹だ。
しかし妹とは一緒に暮らせてなくて、たまにしか会えない。
なぜなら再婚した父親と俺の母親と住んでいるから。
そして俺と弟の瞬はボロアパートで二人暮し。
5年前に実家を追い出さたんだ。父親に。
でも家賃は申し訳なく感じたのか母さんが支払ってくれてる。
しかし食事代や瞬の生活費などの支払いは…俺。
それと最近、瞬のためにスマホも買ってあげた。
あと将来のために予備校だって通わせている。
だからなんだかんだそこら辺の大学生に比べたら支払いが多いのかもしれない。
でもだからってそれを苦に感じたことはない。
だから遊びにも行かず、バイト尽くしの日々を送っているのだ。
なのに…なのに!!
こんな時に高時給の居酒屋がクビなんてっ。
今の俺には痛すぎる現実だった。
『なぁ〜なつみいぃ〜。
お願い!!高時給のバイト知らない?』
「え?そんな急に言われても…ね…?」
『頼むっ。お願い!!奈津美様!!
良いバイトがあったら紹介して下さい!』
そう言いながら両手をぱちんと合わせた。
友達が少ない俺には奈津美しか頼めるヤツはいなかった。
すると奈津美が小さなため息をつく。
「んもぅ〜。
光ちゃんって色々条件つけるから大変なのよ?
あ、そうだっ。
私のキャバクラでボーイなんてどうかしら?」
その提案に顔色が青ざめた。
『そ、そ、そんなの無理に決まってるだろ…!』
「ふふ。ごめん、冗談よ。
光ちゃんは人見知りだもんね。
私ともようやく打ち解けたくれたんだから。
でも高時給って……
夜じゃないとなかなか難しいわよ?」
『う、うん…分かってる。』
小さく頷いて顔を俯かせた。
すると奈津美が俺の肩を軽く叩く。
「しょうがないわね。
光ちゃんの為に探してみるわ!!」
その言葉にぱあっと顔を上げて「ありがとう」とお礼を伝えた。
そして次の授業が始まるチャイムが鳴り響いた。
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