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瞬 〜 side 2
『…しゅん?』
腰に手を回したまま不思議そうな顔をした。
『どうした?顔怖いぞ。』
上目遣いでそう言って、首を傾げた。
「っっ」
ドキッと胸が高鳴り、その瞬間、全身の血が湧き上がるように体が熱くなる。
『あれ?
顔赤いけど…体調悪い?』
兄ちゃんの右手が腰から離れ、その手は俺のおでこへと伸びる。
「…ちっっ、ち、違うよっ!」
つい驚きで、手を払ってしまった。
その瞬間、気まずい雰囲気が漂う。
兄ちゃんは驚いた表情をし、そして俺に払われた手を悲しそうに見つめた。
「…っっに…っ…兄ちゃん。
ご、ご、ごめんっ!」
慌てて謝りながら、払ってしまった兄ちゃんの手を掴んだ。
…どうしよう。
早く、早く、何か言い訳しなくちゃと頭をフル回転させた。
「お、俺……今、かなりお腹空いてて…っ…」
『……え?』
悲しげだった兄ちゃんがぽかんと口を開けて見上げた。
自分でも何を言っているのか分からない。
でも思考は止まってるはずのに、一度開いた口が再びスラスラと言葉を続けた。
「俺、夕方からずっと何も食べてなくて……
だからイライラしちゃってて……
ほら…ずっと兄ちゃんのこと待ってたから……」
最後の方は消えるような声で言う。
すると兄ちゃんが少しばつ悪そうに眉毛を下げた。
その瞬間、胸がぎゅっと痛む。
「ごめんね、痛かったよね?湿布貼る?」
まるで、幼稚園児をあやすように叩いてしまった手の甲を擦った。
すると兄ちゃんが顔を俯かせながら首を横に振る。
表情は俯いてて分からないが、きっと兄ちゃんの事だから罪悪感に苛まれてるのだろう。
そう思うと今のは俺が悪いのに、攻める言い訳をしてしまった自分もまた罪悪感で胸が押しつぶれそうだった。
すると兄ちゃんがゆっくりと顔を上げた。
大きい瞳の先に顔色を伺う切ない色。
『俺の方こそ……ごめん。』
そう小さく言って、唇をぎゅっと噛み締めた。
本気で自分をぶん殴りたくなった。
こんな表情をさせたい訳じゃない。
俺といる時はずっと笑っていて欲しいのに。
俺だけが兄ちゃんの事を理解してあげれるのに。
今はまるで他人のように俺の顔色を伺う姿に吐き気がする。
無理矢理でも唇を奪って、俺だけしか知らない世界になればいいのに。
しかしこんな許されない感情は決して悟られてはいけないのだ。
ふぅと軽く息を整えて、今度ら優しく微笑む。
「……兄ちゃん、カレー食べよう?」
するとタイミング良く、お腹が鳴ってくれた。
エヘヘと笑って「可愛い弟」いう名の仮面が被る。
そんな俺にホッとしたのか、兄ちゃんの顔色が変わった。
「……う、うん!!
食べよう、食べよう!!」
両手に拳を握って、上下に振る。
本当……子供みたい。
でもそんな兄ちゃんが大好きで、愛おしい。
いつか俺以外の誰かが兄ちゃんの良さに気が付いたら彼女とか出来るのかな。
その人を抱きしめたり、キスしたり……とか。
……考えただけで、気持ち悪い。
そんなこと絶対にさせないし、彼女なんて絶対に許さない。
きっと俺は兄ちゃんの理解者という力を使って、二人の仲を引き裂くだろう。
そして二度と近寄らせたりしない。
「ねぇ……兄ちゃん。大学楽しい?」
『え?なに、急に。』
兄ちゃんが驚いたように目を大きく見開いた。
「いや、兄ちゃんってバイトばっかりで友達と遊んだりしないから。」
『……ゴホッ』
兄ちゃんが咽ながら、涙目で睨みつけた。
『大学は友達作りにいく所じゃねぇ!』
少し興奮したように頬を染めながら大きな声でそう叫んだ。
『大学では一人の方が気が楽なんだ!
人間関係で悩む事もないし、お金もかからないし、自由だし!!
それに友達が多ければいいってもんじゃない!!』
フンッと鼻を鳴らしてなぜかご立腹のようだ。
でもそんな姿も愛おしい。
「……じゃあ好きな人は?彼女とか出来た?」
『はああああ!?』
恐ろしく可愛いぐらい顔を真っ赤にさせながら後退る。
『か、か、彼女!?
な、な、何っ。い、いる訳ないだろ!!!』
まるで思春期の中学男子が母親に聞かれた時のようなオーバーリアクション。
しかし俺の頬を嬉しさでついつい緩む。
『……あ、今!!笑っただろ!』
兄ちゃんがプルプルと人差し指を指しながら怒った。
俺は我慢出来ず、クスクスと笑った。
「大丈夫だよ。
兄ちゃんの良さは俺が一番分かってるから。
友達も彼女も作ろうと思って作れるものじゃないよね。」
決して兄ちゃんに悟られてはいけない。
「でも良かった……。
本当は友達とか彼女と遊びたいけど、俺のせいで我慢させてるのかなって……」
俺の本当の気持ちを。
「だから聞けてよかった。
いつもありがとう。……お兄ちゃん大好き。」
そう言って、いつものように仮面を被ったまま笑顔を見せた。
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