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第2話

 今の今まで、まるで音沙汰なしだったのに係わらず、突如として思い付いたように送られて来た、そんな男からのメールだ。躊躇(ちゅうちょ)も当然といえよう。  一瞬、開封しないままで捨ててしまおうかとも思ったのだが、添付画像が添えられていることに気が付いて、冰は削除を留まった。まさかその当時によからぬ写真でも撮られていて、何かの脅しのネタにでもするつもりなのかと思ったからだ。  気は進まなかったが、思い切って画像を開いてみることにした。 ――が、それを開いた瞬間に冰は絶句させられてしまった。  瞬時に身体が震え出し、ガクガクと膝が笑い出す。身体はカーッと熱を持ち、ほんの数秒でぐっしょりと玉のような汗が噴き出す程に衝撃が襲い来る。  そこには自身の店の新入りホストである『一之宮紫月(いちのみやしづき)』の淫猥な姿が写っていたからだ。 ◇    ◇    ◇  『紫月』というのは、自身が代表を務めるホストクラブに先月から入店したばかりの新米ホストである。年齢は二十一歳だと聞いている。ほぼ万人が一目で惹かれるような見事な容姿に加えて、少々天然系の抜け感が客受けして、僅かの間に人気が沸騰、現在は店のナンバースリーにまで上り詰めたという大した若者だった。  外見だけでいうならば、すぐにもナンバーワンが獲れそうな程の男前だが、彼があと一歩でトップに及ばないのには訳があった。そう、紫月には既に将来を誓い合った相思相愛の恋人がいたからである。しかも、その相手というのは男――つまりは同性同士で愛し合っているわけなのだ。故に店以外では女性客との親密な交際は一切しないという方針で、そのせいでか、今ひとつ大ブレイクには届かないといったところなのだ。  紫月が恋人の『鐘崎遼二(かねさきりょうじ)』と共にこの店に入店したいと訪れたのは、冰が代表に就任して間もなくの――ちょうどひと月ほど前のことだった。  初対面となる面接の段階で、自分たちはゲイでお互いに愛し合っている仲だということを堂々と暴露してよこしたので、冰にとってはよくよく記憶に残っている男たちだった。というのも、冰自らも恋仲にある相手が男性だからであった。

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