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第6話

 冰は不動と言われた程に人気の高かったナンバーワンだ。現役を辞してからも想いを断ち切れずに、ヘタをするとストーカーまがいの迷惑行為に走る客が皆無ともいえない。帝斗自身、現にそういった事例を見てきたこともあるので、少々気に掛かったわけだ。  だが、黒服からの返答では、そういったしつこい客に覚えはないし、冰を指名していた太客たちは、引退を機にこの店から去ってしまった者もあったが、新しいホストへと口座替えをして通い続けてくれる有り難い客も多いとのことだった。 「雪吹代表もしょっちゅうフロアへ顔を出してくれますし、お客様方も喜んでくださって和気藹々ですよ」 「そう……」  帝斗は少々難しげな表情で考え込みつつも、 「なあ、ちょっとパソコンを借りたいんだが、いいかい?」すぐに黒服らの焦燥感を宥めるように穏やかな笑顔でそう言った。 「はい、どうぞこちらです」  黒服に案内されて、懐かしい事務所のパソコンをスリープ状態から立ち上げる。  その昔、帝斗は冰が金の工面の為に男性客を相手に色を売っていたのを知っていた。当初、冰が腹違いの兄に金を無心されていたことを知らなかった時は、毎夜のように男性客とアフターに消える彼の様子を見て、随分と不可思議に思ったものだ。営業の為というには度が過ぎる程のアフターぶりを気に掛けた帝斗は、万が一の時の事態を考えて冰にGPS付きの名刺入れを贈っていたのだ。  今も彼はあの名刺入れを持っていてくれるだろうか――。  彼の最愛の恋人となった氷川にGPSの存在がバレた際には、少々詰られたのも懐かしいが、氷川があのまま自身の贈った名刺入れを使わせ続けているかどうかは疑問なところだ。  案外心配性で嫉妬心も旺盛な氷川のことだ、もしかしたら未だに冰に何かしらGPSの類を持たせている可能性も無きにしも非ずだが、そうであったとしても当然新しいものに買い換えてしまっているだろう。  そう思いながらも、念の為探査に掛けてみる。――と、あろうことかまだその存在が生きているようで、地図上に反応を示した。 (――これは驚いたな。白夜のヤツ、僕が贈った名刺入れを未だに冰に持たせているってわけか?)  まあ、帝斗が理由もなしに冰のプライバシーを探るようなことはないと信頼してくれていたのだろうか。  余談だが、以前に冰は腹違いの兄が雇った男たちによって、拉致の被害に遭ったことがあった。その際に、この名刺入れが役に立ったのだ。  あわや陵辱強姦されそうになっていた冰を間一髪のところで救い出せたのは、名刺入れに付いていたGPSによって冰の居場所を即座に突き止められたからだ。  氷川にしてみれば帝斗のお陰で、あの拉致事件の時は最悪の事態に至らずに済んだという恩義の方が大きかったのだ。帝斗が冰の身を案じてくれていたことが嬉しかったのだろう。以来、お守りのようにして、そのまま名刺入れを冰に持たせていたようである。

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