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第11話

 冰も慌ててその後を追い掛ける。 「高瀬さん……! ……紫月には……もうこれ以上何もしないでくれ……! 今の彼は動ける状態でもないだろう。だからこれ以上、縛ったり薬を使ったりしないで……欲し……」 「乱暴なことなんかしないから安心していいよ。それより車の鍵を開けてくれないかい? あと、念の為にもう一回縛るのと睡眠薬はもう少し使わせてもらうから」 「……そんな……!」  ここで反抗したところで、事態が良い方向にいくことは有り得ない。致し方なく、高瀬の言うなりに従うしかない。冰はハラハラとしながら、紫月が車へと押し込まれる様子を見ているしかなかった。 「さて――と。これで邪魔者は消えたね。キミと二人、水入らずでゆっくり話ができるというものだ」 「……邪魔者って……」 「僕はあの紫月君とかいう子には何ら興味はないからね。キミを呼び出す為の道具として使わせてもらったまでだよ」  それは想像通りだが、この何とも皮肉たっぷりの物言いに悪寒を煽られる。この男の目的が自分の身体であろうことは訊かずとも承知だからだ。  冰はスレンダーな体型であるが、常人に比べれば腕の達つ体術を心得ている。隙を見て、この男に峰打ちを食らわせることも可能であったが、今は状況が悪過ぎる。紫月を人質に捕られている上に、爆弾の起爆スイッチを身に着けているような男に攻撃を仕掛ければ、当たり所が悪ければ瞬時に爆発を引き起こしかねないのだ。一先ずは言うなりに従うしかなかった。 「とにかく掛けてくれ。むさ苦しいところで悪いが、他人に邪魔をされない所といったら此処しかなかったんでね。キミにはいろいろと積もる話があるんだから」  高瀬は上機嫌な様子で、先程紫月が転がされていたソファを勧めてよこした。 「何か飲むかい? 大したものはないけれど」 「いえ……俺は結構です。それより話って……」 「つれないねえ、波濤。ちょっと前まではたっぷり愛し合った仲だっていうのに――」  起爆スイッチをポケットから出し、これ見よがしに目の前で弄くりながら高瀬が気味の悪い笑みを浮かべていた。 「まあいい。そんなに言うなら本題に入ろうか。キミには間々言いたいことがあるのは確かだからね。その中でも特に僕が気に掛かっているのは『龍』って男のことだよ」 「――――!」 「あの龍とかいう男、キミとナンバーワンを争っていたらしいが、正直あんな無愛想な男のどこに魅力があるんだか――! 彼を指名する客の心理が全く分からないね」  そんなものは人それぞれの好みである。――が、反論したところで事態が悪くなるだけだ。冰は黙ってこの場を堪えるしかなかった。

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