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第10話

「当然だろう? その子を帰して、警察に駆け込まないという保証はあるかい? キミの店の連中を引き連れて来ないとも限らないだろうが」 「……ッ、紫月は……そんなヤツじゃない」 「信用できないね。彼のことは解放するが、外で待っていてもらうよ。そうだな――キミが乗ってきた車にでも閉じ込めておこうか。逃げてもらっては困るんだから、もう少し強めの睡眠薬でも嗅がせてからだけどね」 「そんな……ッ」 「紫月君といったか? キミもよく聞いておくがいい。キミがヘタな考えを起こせば、この雪吹代表の安全は保証しないからね」  高瀬はそう言うと、背広のポケットからスイッチのような器具を取り出して、それを冰と紫月の目の前へと差し出してみせた。 「これは起爆スイッチだ。爆弾はほら、そこの机の上」  顎でしゃくり、そちらを指し示す。冰はギョッとしたように瞳を見開いた。 「爆弾……って……、あんた、正気なのか……?」 「ああ、勿論正気だよ。助けを呼んだり、邪魔が入るようなら躊躇(ためら)いなく吹っ飛ばすつもりさ」 「……! そんなことをすればアンタだって無事じゃいられねえだろうがッ!」 「構わないさ。元々、僕はこれでキミと心中するつもりだったからね」 「心中……!?」 「ああ、そうさ。いずれはキミの店の連中にも、そして警察にも今夜のことはバレてしまう。そうしたら僕は無事ではいられないだろう? だから最初からキミと一緒に死ぬ覚悟なのさ」  ベラベラと流暢に語られる声音に切羽詰まった感は微塵も感じられない。冰は、この高瀬という男が既に常軌を逸しているのだろうと思いながら身を震わせた。 「まあ、でも……それは最終手段で、上手くキミと二人で逃げられれば話は別だけれどね。無事に海外にでも逃亡できたら、その時はキミと二人、幸せに暮らすつもりさ」  手にした起爆スイッチを高々と天井の灯りに透かしながら、嬉しそうに口走る。その様が異様で、やはり普通の精神状態ではないだろうことが窺えた。  高瀬はポケットにそれをしまうと、コツコツと音を立てながら床を鳴らして近寄っては、冰の腕の中でぐったりとうなだれている紫月の胸倉を掴み上げてこう言った。 「いいか、紫月君――。出しゃばったマネをすれば、僕は迷わずこれを押すからね。そうすればキミの大事な雪吹代表は吹っ飛んじまうんだから。分かったらせいぜい大人しく寝ててくれよ?」  乱暴に、冰の腕の中から掴み上げるように紫月を抱き起こすと、ズルズルと引き摺るようにして扉口へと向かった。

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