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第23話

――ふと、何かの気配に意識を揺さぶられ、ほんの一瞬正気を取り戻す。  そこには今まさに夢に見ていた唯一人の男の顔が浮かび上がる。  夢か――、幻か――。  朦朧とする意識の中でガッシリと肩を掴まれ揺さぶられて、冰は我に返ったように瞳を見開いた。 「冰! しっかりしろ! 冰ッ――!」 「……龍……? ま……さか、本当にお前……?」 「ああ、俺だ。大丈夫か? よくがんばったな。今、解いてやるからな――」 「……っう……! 龍……龍ーーーッ!」  愛しい男をはっきりと認識した瞬間に、冰の双眸から滝のような涙があふれて落ちた。  階下の倉庫では、既に遼二が高瀬を確保し、側近らによって起爆スイッチも無事に取り上げ終わっていた。  冰は未だ治まらない欲を堪えながらも、氷川の腕の中で紫月のことを気に掛けていた。 「紫月なら大丈夫だ。帝斗が助け出した」  その言葉にほうっと深く胸を撫で下ろす。 「とにかく帰ろう。紫月たちも下で待ってるが、一目だけ会ったら家へ急ぐぞ」  冰の様子から、また催淫剤の類いを盛られたことを悟った氷川は、先ずは彼をこの苦しみから解放してやらねばと思っていた。階下の側近たちに確保させている高瀬への仕打ちはその後だ。  氷川は冰を抱きかかえると、数ある自身の拠点の中から一番近くに位置するホテルへと向かった。  ここは空港の直下である。氷川の経営するホテルも近いことが不幸中の幸いだった。 ◇    ◇    ◇

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