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第25話

 一見にしただけでホストクラブのスタッフとも思えない闇色の雰囲気をまとった男たちに囲まれて、生きた心地がしなかったのだろう。とりあえず見知った顔の氷川にしか頼る術がない――高瀬の表情からはそんな心の内が透けて見えるようだった。  そんな男たちは、「お疲れ様です」氷川が到着すると、彼の為に道を開けるようにして丁寧に頭を下げる。 「爆弾は偽物でした。スイッチも単なる照明用のものです」  解体の為に蓋の開けられた箱を氷川へと差し出しながら、側近の一人が重々しい声でそう言った。 「は――、脅しにしてはチャチなもん持ち出しやがって」  氷川は起伏のない声音でそう言ったが、例え偽物でも冰や紫月がこれの為にどれ程の思いをさせられたかと考えるだけで虫唾が走るというものだ。 「こ……今回のことは……悪かった……。波濤にはもう二度と手をださない……。アンタたちの店にも……もう二度と近付かないから……勘弁してくれないか」  高瀬は氷川の前で土下座をすると、縋るような声でそう懇願した。  ガタガタと震える様から察するに、報復として氷川らから暴力を食らったりするかも知れないと思うと、それだけで耐えられないのだろう。と同時に、貿易会社社長という立場も失くしたくはないのだろう。謝って許しを請うことで、この場を平穏に収めたいというのが見え見えである。つまりは冰を手中にすることよりも、今の自分の立場の方が大事だというわけだ。  氷川にとってはそんな根性からして許せるものではなかった。逆に、全てを失くしても冰が欲しいというくらいなら、まだ同情の余地もあろうというものだ。 「龍……、龍……さん! 本当にすまなかった……! 波濤のことは諦める。だから……どうか許して欲しい……! この通りだ! 波濤には二度と近寄ったりしない! 約束する……!」 「当然だ。二度と手を出してもらっては困る。――が、今の言葉――嘘だった時には命はねえぜ」 「……い、命って……アンタたちはいったい……」 「知らねえ方が身の為だってことも世の中にはあるがな――」  氷川はグイと高瀬の胸倉を掴み上げると、顔と顔とを付き合わせ、表情一つ変えず眉一つ動かさないまま、地鳴りのするような低い声でそう言った。 「……ひ、ヒィ……ッ! わ、分かった……分か……」  瞬時に喉が嗄れ、声にもならない声で、ともすれば口から泡を吹くような勢いだ。氷川は掴んでいた胸倉を放すと、まるで汚物をゴミ箱へと捨てるかのように高瀬を床へと放り出した。 「後は任せる――」  側近たちにそう言い残すと、氷川はその場を後にして行った。

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