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第27話 未来への招待状

 高瀬芳則による拉致事件から丸二日が過ぎた頃――心身共に休養を得た冰は、氷川に連れられて鎌倉にある彼の別荘を訪れていた。  都心のビル群と違って、閑静な山道を少し入ったところにある一軒家である。周囲は竹林に囲まれていて、おいそれとは人目にもつかないプライベートな空間に建てられた、まさに別荘というにふさわしいような邸だった。  冰らが到着してしばらくの後、遼二と紫月もやって来た。事件に巻き込んでしまったことへの詫びも兼ねて、氷川が招待したのだ。 「紫月、遼二、この度は本当に申し訳なかった。俺のせいでキミらを巻き込んじまった。勘弁して欲しい、この通りだ」  冰は深々と頭を下げて詫び、氷川も同じく二人揃って謝罪をする。遼二と紫月は大慌てで冰らの傍へと駆け寄った。 「オーナー、代表、そんな……とんでもないです!」 「どうか頭を上げてください!」  特に紫月の方は、高瀬にいいように言いくるめられ、連れ去られてしまった自分に非があると思っているようで、恐縮しきりであった。 「俺がもっと注意していればこんなことにはならなかったんです。何も疑わずに高瀬って人にホイホイ付いて行っちまって……。本当にすいませんでした」  紫月の話では、店先でいきなり声を掛けられて、『自分は以前この店に通っていた客だが、雪吹代表のことについて内密の話がある』と意味深なことを言われて誘われたとのことだった。酷く神妙な様子だったので、特に警戒せずに誘いに乗ってしまったのだという。  まあ、ホストになって間もない紫月では経験も浅いことだし、致し方ないことかも知れない。紫月自身もいい勉強になったようで、反省しきりだった。だが、それ以上に事を重く感じていたのは冰も同じだった。  帝斗から代表の座を受け継ぐ際にも、恋人の氷川からはホストの仕事を辞めて彼の傍にだけいて欲しいと言われたのに、どうしても続けたいと言い張ったのは他でもない、自分自身だったからだ。  今回のことで、代表として店を仕切るということは、ただ単にお客に気を配り店を切り盛りしていくだけでは足りないのだということを痛切に思い知らされた。自分の与り知らぬところでスタッフである紫月をさらわれ、彼には酷く嫌な思いをさせてしまった。それもこれも自分の甘さが引き起こしたことなのだ。  幸い、大事には至らなかったものの、冰は代表としての自身の過信を深く反省すると共に、少なからずの不安を感じていたのは確かだった。

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