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第29話

「そうだ。ホストと違って、店の仕入れや顧客の管理といった事務作業が主になるが、引き受けてもらえるだろうか」  突然の氷川の提案であったが、紫月はほぼ即答といった調子で頷いた。 「正直、有り難いです……。俺、ホストはやっぱりたいへんなことも多くて……。あ、仕事の内容が辛いとかじゃないんですが……やっぱり……心のどっかで遼に申し訳ねえなって思うこともあって……。いくらお客さんでも女の子とイチャイチャしてるのを見て、遼が少なからずいい気持ちじゃないんじゃないかって思ってたんです」  それというのも、紫月自身、お客がたまに氷川に連れられて店へとやってくる遼二のことを、カッコイイだの素敵だのと話題にしているだけでも胸が痛む――そんな思いで見ていたからだと付け加えた。 「ほんとはホストやって、短期でバリバリ稼いで金貯めたかったですけど……その為に遼との間に溝を作っちまうんじゃ元も子もないですし。俺、地道に働きながら遼と一緒に歩く道を見失わないでいきたいっていうか……」  僅かに頬を染めながら、紫月は照れ臭そうにして遼二を見やった。  そうである。元々、遼二と紫月の二人がホスト業界に入ったきっかけは、金を貯めたいからであった。  男同士、しかも幼馴染みという間柄にありながら、将来を共にしたいと思う程の自分たちの仲を、双方の両親に認めてもらいたい。その為の条件が、二人で二千万円を貯めることができたら――というものだった。  そうして一日も早くその金額をクリアしたいが為にホストという職業を選んだものの、実際に()いてみれば想像していたほど容易(たやす)いものではない。女性客を相手にするというのは当然のこと、酒の量にしても、客の扱いにしても、(はた)で思うよりも重労働である。  正直なところ、仕事が終われば爆睡の毎日で、たまの休日でも満足にデートをすることさえままならない。加えて嫉妬も皆無とはいえず、不安も募るばかりである。体力的にも精神的にも余裕がなくなってきているのは本当のところだったのだ。  遼二は格別には言葉に出して何を言うでもなかったが、その表情には安堵の色が窺える。氷川の提案と紫月の気持ちを聞いて、内心は嬉しいのだろうことが窺えた。  そんな遼二には、氷川からまた別の提案が持ち出された。 「遼二、お前にも同じく提案だが――今後は俺の側付きではなく、冰と紫月専用のボディガードを任せたいと思うんだが――どうだ?」  遼二は驚いた。 「俺……が、雪吹代表と紫月のボディガード……」 「ああ。お前が冰の傍に居てくれれば、俺は安心して自分の仕事に専念できる。どうだ、頼めないか?」 「承知しました。精一杯勤めさせていただきます」  遼二も即答で了承し、氷川も嬉しそうであった。

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