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第31話

 まあ、それ以前に、そこに二人で住むとなれば同棲ということになる。遼二も紫月も、両親との約束である二千万円すら貯まっていない内から同棲というのも気が引けるわけだろう。二人は何ともいえない複雑な表情で互いを見つめ合っていた。 「何だ、例の二千万の約束を気にしているのか? だったら心配ない。お前らの口座に一千万ずつ振り込んでおいた。二人合わせて二千万円はクリアだ。それに――お前らの両親には既に了解を得てある」 「ええッ――!?」  またしても若い二人は素っ頓狂な大声を上げてしまった。 「何――、その方が便利だし、何より安心だろ? 引き受けてもらえないか?」  氷川にしてみれば、今回大事に至らずに冰を救出できたのは、この遼二と紫月の助力の賜物と心から恩義に感じていた。  的確な情報収集と判断で、迅速に行動してくれた遼二。そして紫月に至っては冰を呼び出す為の道具として使われた上に、とんでもなく嫌な思いをさせてしまった。にも係わらず、紫月は現場の状況を伝えようと、身体の不調をおして尽力してくれた。  そんな二人に対する詫びと恩を、どうにかして形にしたい、そう思ったのだ。それに、この若い二人は自分たちと同じように同性同士で愛し合っている。様々な苦難を懸命に乗り越えようと努力している。そんな姿が愛しくも思えて、氷川は彼らを家族のように思っていたのだった。  未だ驚きが先立って硬直状態の二人を前に、今ひとたび打診の言葉を口にする。 「俺はお前たちが他人には思えなくてな。お前らと側に住みたい、いつでも一緒に居てえって思ってるんだ。これは俺と冰の我が侭でもあるが――聞き入れてはもらえねえか?」  真摯に言う氷川に、若い二人は恐縮しながらもおずおずと頷いた。 「分かりました。それでは……お言葉に甘えさせていただきます」  遼二がそう言うと同時に、紫月も一緒になってペコリと頭を下げた。  と、そこへ側近の李に案内されて、帝斗がやって来た。 「やあ、皆お揃いだね。どうやら例の話も上手くまとまったみたいだね?」  帝斗は氷川が遼二らに投げ掛けた提案を、既に知っていたようだ。にこやかに微笑みながら、良かった良かったといった調子で頷いている。 「帝斗、早かったな。来るのは夕方になると聞いていたが――」  氷川が椅子を勧めながらそう言えば、 「だってお前さん方が皆で楽しくやっていると思ったらさ、どうにも気が逸ってしまって仕方なかったのさ。とっとと仕事を片付けて飛んで来たというわけ!」  悪戯そうな笑みを携えながら、ウィンクまで繰り出すおまけ付きだ。帝斗というのは本当にこうした仕草が嫌味なく、よくよく似合う男でもある。 「やっぱりミカドさんには適わないっす! 自分も初心に返ってまだまだ勉強しなきゃならないことだらけです」  冰がそう言えば、氷川も楽しそうに口角を上げて微笑んだ。  その後は、皆で中庭にある温水プールとジャグシーを楽しみ、和気藹々と過ごした。  氷川と冰、遼二と紫月といった二組の熱愛カップルを前に、帝斗は『僕もそろそろ恋人が欲しいなぁ』などと言っては盛り上がったのだった。  ディナーは皆で中華料理を堪能したら、今夜は別荘に泊りだ。各自、それぞれの部屋へと戻っていった。

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