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第33話

 バーボンを卓上へと置くと、窓辺に立つ冰の隣へと歩を進める。氷川はそっと彼の肩に腕を回し、抱き寄せながら言った。 「そのことなら心配はいらねえ。あの二人は既に知っている」 「え……!? もしかしてお前が打ち明けたのか?」  氷川はこのひと月の間、ずっと遼二を側付きとしていたわけだから、彼と過ごす時間も多かったわけである。その間にそういった話が出て、打ち明けたのかと思ったのだ。  だが、実際は違った。 「俺は言ってねえがな。でも奴らは知っている。俺の親父が香港マフィアの頭領の周隼だということも――。それを証拠に、ヤツはお前を救い出す際に俺を引き留めた」 「引き留めた……?」 「――俺が拳銃を使わんとしていることを見抜いていたんだろう」 「……拳銃って……龍、まさか……」 「事務所のドアをぶち破って踏み込んだ直後、高瀬が起爆スイッチを押す前に仕留めるつもりでいた。無論、スイッチをヤツの手から取り上げられればいい。多少の怪我を負わせたとて仕方ねえ――くらいのつもりだったがな。遼二は俺がヤツを殺っちまうかも知れねえと危惧したのかもな」 「……そんな……!」  だとすれば、遼二は本当に氷川の素性を知っているのかも知れないと思えた。 「……じゃあ……遼二らに教えたのは、もしかしてミカドさんか?」  氷川自身が言っていないのなら、事情を知っているのは元オーナーの帝斗だけだ。無論、冰も打ち明けてはいないし、他には思い当たらない。  不思議そうに首を傾げる冰の横で、氷川はまたも面白そうな笑みを浮かべてみせた。 「お前は覚えてねえか? あの二人が初めて店に面接に来た時のことだ。俺があいつらに向かってトランプのカードを投げ付けたことがあったろう?」 「あ、ああ……! 勿論覚えてるよ。あの時はビックリしたぜ。いきなりあんなことするんだから……どうしちまったのかと思って……」  そう――、氷川は遼二らが面接に来た際に、突如彼らに向かって卓上にあったトランプのカードを投げ付けるという暴挙に出たのだ。  ちょうどその面接の直前まで、店のホストたちが客受けするテクニックの練習だと言ってトランプを使っていたので、机の上にはカードが散らばっていた。これ好都合と、その中の一枚を取り上げて、氷川は彼らに向かって勢いよくそれを飛ばしてみせたのだった。  突然の奇行に、冰は何をいきなり乱暴な――という顔をして驚いたのだが、もっと驚かされたことには、遼二がそのカードを真剣白刃取りのようにして二本の指でキャッチしたということの方だった。

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