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第34話

「あいつらを一目見て思ったんだ。特に遼二の方だ。ヤツは俺の知り合いによくよく似た顔立ちをしていた。その直後にあいつが”鐘崎遼二”と名乗ったんで、もしかしてと思ったんだ」 「知り合い? ……って、どんな?」 「仕事上の知り合いだ。俺の親父――つまりはファミリーとも繋がりのある人物だ」  ということは裏社会と関係があるということになる。遼二がその知り合いに似ているとは、一体どういったことだろうか。冰はしばし首を傾げさせられてしまった。  そんな様子に苦笑気味ながら氷川は続けた。 「その人物の名は鐘崎僚一(かねさきりょういち)といってな。この日本で――いや、アジア圏でと言った方がいいか――俺たち同業者の中では彼の名を知らない者はいないというくらいのキレ者だ」 「鐘崎……!? 同業者って……! じゃあ、遼二は……その鐘崎僚一っていう人の……」 「(せがれ)だ。まさかうちの店に転がり込んでくるなんて思いもしなかったが、遼二があまりにも僚一にそっくりなんで、俺はヤツにカマを掛けてみようと思ってな」  それで例のトランプを投げ付けるという奇行に出たわけか――。 「案の定、ヤツはいとも簡単に反応してトランプを掴み取った。その直後に俺がヤツに何か体術を心得ているだろうと訊いた時の反応もな。ヤツは謙遜して空手と拳法を少しだけかじっているなんて抜かしやがったが、あの時のヤツの目を見て確信したんだ。あれは裏の社会で育った人間の目だった」 「……そんな! じゃ、じゃあ紫月もそのことを……勿論知っているわけ……だよな?」 「ああ。紫月は遼二の父親――鐘崎僚一の相棒として活動を共にしている一之宮飛燕(いちのみやひえん)という男の(せがれ)だ」 「相棒って……それじゃ、遼二と紫月の親御さんは……揃って裏社会の人だってことなのか?」 「そういうことになるな。まあ、彼らはアウトサイダーだが」 「ア……ウトサイダー?」 「組織や団体に所属しているといったふうではねえってことだ」 「え……、じゃあ、組長……とかじゃないってこと?」  日本で裏社会といえば、組とか会とかいった方向に思考がいくのだろう。冰のキョトンとしながら首を傾げる様子が何とも言えずに可愛らしく思えたわけか、氷川はふいと瞳を細めてしまった。 「例えば面子(めんつ)なんぞの関係で表向きは手が出せねえような案件を、依頼者に代わって遂行するような仕事をしてる。俺たちファミリーのような組織と組むこともあれば、政府や要人なぞ、依頼者は多岐に渡る。僚一は、その右に出る者はいねえってくらいの情報網を持っていてな。体術にもズバ抜けているし、主には実行部隊だが、紫月の父親の飛燕の方はコンピューター関連のプロだ。僚飛(りょうひ)のコンビといったら俺たちの業界じゃ神格的ってもんだ」  まあ、氷川は彼らが鐘崎、一之宮と名乗った時点でほぼ確信を得ていたようだが、そうであるならば尚更試してみたいと遊び心が疼いてしまったようだ。

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