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第42話

 紫月の父親の方も一見モデルのような美男だが、こちらは言われなければすぐには親子と結びつかない印象だ。ということは、紫月は母親似なのだろうと思えた。 「はじめまして! 雪吹冰です。ご子息様方にはたいへんお世話になっております。また、先日はとんだご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ございませんでした。彼らのご助力で、私どもはどれ程救われたか知れません」  氷川とは違って物腰もやわらかく、真摯な様子がこれまた実に冰らしい。丁寧に頭を下げた冰に、僚一も飛燕も好印象を抱いたようであった。 「つい先日、(イェン)がうちを訪ねてくれた際に話には聞いていたが――噂以上の男前だな。本当にいい男だ。綺麗なだけじゃなく、人柄の良さが伝わってくるぜ」  遠慮なしのストレートな物言いだが、裏を返せば、二人にとってそれ程に冰が魅力的に映ったということだろう。 「似合いのカップルだな。羨ましい限りだ」  これでは氷川が夢中になるのも納得だといった調子で飛燕が言えば、僚一もニヒルに口角を上げて、悪戯そうに微笑んだ。 「ダブルブリザードか――。こいつぁ、(イェン)にとっちゃよくよく最高の相手じゃねえか。名前からして溶かし甲斐がありそうだ」  その言葉に、ふと、まだ氷川と親密な関係になる前のことが思い出されて、冰は瞳を細めた。  ”雪吹(ふぶき)”という名字に”(ひょう)”という名――凍るような印象のそれを知った氷川から、同じことを言われたことがあるからだ。 ――雪吹冰、ダブルブリザードか。すげえ冷てえ名前だな。きっと溶かすのに苦労する。  冰にとって、まだ自身の抱える苦渋の思いを誰にも打ち明けられずに、孤独の渦中でもがいていた時だ。氷川に対しても素直になれずにいたその頃が、遠い昔のことのようにも思えて、懐かしささえ感じられる。裏を返せば、それ程に今が幸せなのだということをしみじみと実感させられる。冰は思わず目頭が熱くなるのを抑えるかのように、とびきり朗らかに微笑んだのだった。 「さて――と、それじゃそろそろ出掛けるとするか」 「(イェン)、親父さんたちに伝言があれば伝えるが」  僚一と飛燕がそう言いながら席を立つ。 「そうだな、俺も近い内に冰と――それに遼二と紫月を連れて一度親父のところへ顔を出そうと思ってる。よろしく言ってくれ」  氷川は冰の肩を抱き寄せながら言った。 「おお、伝えておくぜ。(イェン)、冰――うちのボウズ共をよろしく頼むな」  僚一はヒラヒラと手を振りながらも、「そうだ」と言って、今一度氷川らを振り返った。 「(イェン)、あまりボウズ共を甘やかしてくれるなよ?」  ニヤッと悪戯そうに微笑む様子が本当に様になっている。ここへの引っ越しといい、先日二人の口座に高額の報酬を振り込んだことといい、いろいろと世話を掛けてすまないという気持ちに代えての言葉なのだろう。  氷川はそんなところが僚一らしいと、改めて嬉しそうに笑うのだった。

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