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第43話

「じゃあな、遼二に紫月。(イェン)と冰を見習って、お前らも精進するんだぞ」 「よく勉強させてもらえ」  口々にそう言い残して香港へと発つ彼らを皆で見送った。  ふと、窓の外に目をやれば、午後の日射しがキラキラと都会の空を黄金色に染め始めている。 「さあ、それじゃもうひと頑張りして片付けを済ませたら、夕飯は皆で豪勢に行くとするか!」 「おいおい、もう夕飯の算段かよ……。相変わらず気が早いんだからな、龍は!」  氷川と冰が睦み合いながら楽しげに笑い合う。 「でしたら、今日は俺らに奢らせてください!」 「そうッスね! 李さんや皆さんにも引っ越しを手伝っていただいちゃって、ご足労お掛けしちまったことですし、精のつくもんでも食いに行きましょう!」  遼二と紫月も大乗り気だ。  氷川と冰は勿論のこと、食事に誘ってもらった側近の李たちも嬉しそうであった。  一方、階下へと降りるエレベーターの中では、僚一と飛燕が頼もしげに瞳を細め合っていた。 「(イェン)のボウズも立派になりやがって」 「ああ。本当にな――」 「まさか遼二と紫月坊が(イェン)たちと縁を持てるだなんぞ、思ってもみなかったがな――」 「同感だ。奴らを見ていると、昔を思い出す。若いってのはいいもんだな。(イェン)に冰、それに遼二坊とうちの紫月が揃って、まさに”ファミリー”の誕生というところかな」 「ああ、”(イェン)ファミリー”だな。立派な息子に育ちやがった。ヤツの親父――香港の(スェン)もさぞ鼻が高いことだろう」 「俺たちもまだまだ負けちゃいられねえな?」  二人は同時に微笑み合うと、互いに肩を突き合いながら高楼を後にしたのだった。  まさか遼二と紫月の父親たちがそんな会話で盛り上がっているなどとは知らない氷川らは、笑顔に満ちて引っ越し作業の続きに精を出す。  誰の頭上にも幸せの陽光が燦々と降り注いでいるかのようだった。  今ここに、それぞれにとって大切な相手と信頼できる仲間たちが集えていることの幸せを実感する。  氷川は冰の肩を抱き寄せながら満足そうに微笑み、そして遼二と紫月は窓辺に駆けてゆき、彼らの両親の姿が見える見えないと言っては、楽しそうにはしゃいでいる。それらを見守る側近の李たちの視線も朗らかな幸せに満ちている。  かつて、それぞれの親たちがそうであったように、時を越えて絆が受け継がれてゆくかのようだった。これから先、それぞれを待ち受ける未来には、順風満帆なことばかりではないかも知れない。先日の拉致事件のように、予期せぬ苦難が待ち受けていることもあるだろう。だが、運命によって結び付けられた絆は、より強固なものとなって互いを奮い立たせるに違いない。  病めるときも健やかなるときも――その誓いの如く、どんな時にも互いを愛しみ、助け合い、そうしてより一層絆を深め合っていくことができるだろう。  愛情と友情と、仲間への信頼と――。恋人も、上司も部下も、主も側近も、互いを慈しみ、共に過ごせることの幸せを噛み締める。ここにまたひとつ、新たな家族(ファミリー)の絆が生まれようとしていた。 - FIN -

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