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第4話
まるでこの数ヶ月が嘘のように平穏な日常。
祐也に会えなくなる日が突然来るとは思ってもみなかった
家人がいなくなった頃を見計らってそっと家を出る
せめて最後に一度だけ祐也に会いたかった
聖は大學前のカフェに入ると窓際の紅いソファの席に目をやる…何時もと同じように祐也はいた
数ヶ月前と変わらず真剣に本を読んでいる、僕がいなくなっても何も変わらないんだろうか?
そっと近寄ると不意に顔をあげた祐也と目が合った
「聖…?」
名前を呼ばれ涙が溢れる「祐也さん…」中々それ以上の言葉が出て来ない
「大丈夫なのか?家業の方が大変なんじゃ…」
言いながら聖をソファに座らせる
涙が止まらない聖を祐也はただ黙って待っていてくれた
聖は今までの経緯を全て祐也に話した、絵里の事も全て。
「祐也さん…貴方はいつか米国に行きたいと言ってましたよね?」
「あぁ?」
「僕は貴方と米国に行きたい」
初めて祐也に会ったあの日、映画監督になりたいと夢を語る姿に恋をした
…僕も行きたい…と叶うはずのない僕の言葉も真剣に聞いてくれた
けれどその約束を口にしたとたん祐也は困惑の色を浮かべた
「そんな事をしたら君の家めただでは済まないだろう?」
当然の言葉だった
結局 祐也さんの夢の中に僕はいない華族の子息である僕の戯言に付き合ってくれただけ…
ならば。
全て気持ちを打ち明けて壊してしまおう
辛い想いを抱えて生きていくくらいなら、いっそ軽蔑され嫌われた方がいい。
「祐也さん…最後に聞いてくれますか?」
また涙が溢れた
「祐也さん…僕は貴方が好きです…友情ではなく恋愛として」
祐也の顔を見る事が出来ない
「ごめんなさい…帰ります」
そう言って踵を返した瞬間 腕を強く掴まれ引き寄せられた
「本気なのか?」
祐也が何を考えているか分からない
「えっ?」といぶかしむ
「本気なのか?」確かめるように祐也はもう一度言う
「嘘なんかじゃありません…貴方だけを…想っています」
祐也の優しい笑顔が目に映る
「貴方を愛しています」そう言うと「分かった」と祐也は一言だけ応えた
自分の想いを受け止めてくれた事にただ涙を流す事しか出来なかった
もしかしたらこの時が一番幸せだったのかもしれない
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