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第5話
祐也と聖はそのまま京都へ向かう汽車に飛び乗った
聖が持ち出した金だけでは到底 米国になど行けはしない。
「米国に行くためには金を貯めないとな」
聖の不安を取り除くように努めて明るく祐也は言う
京都に着くと何もできずオロオロする僕を他所にテキパキと物事を進めて行く
「聖はここで待ってて?」
町はずれにある神社の境内だ
「その格好だと目立つから 一通り揃えて来るよ」
そう言って足早に遠ざかる…このまま置いて行かれるのでは?と不安が過ぎる。
が 途中振り返って手を上げるのが見えた
ホッとして手を振り返す
しばらくすると 帰って来た祐也は早々に住み込みの働き口も見つけていたようだ
案内された部屋で着替え終わると祐也は
「俺が働くから…こんな狭い家ですまないな」と言った
ハッとして口を挟む
「ダメです、僕もちゃんと働きますから」
重荷になりたくなかった 二人の力で夢を叶えたかった
「分かった、無理はするなよ?」
辺りはすっかり夜も老けていた
これからはゆっくりする暇もないだろうからと 二人で市街を散策している
ひと気のない雑木林で不意に立ち止まった祐也の手が頬に触れて顔が紅潮する
「もう時間が遅いので帰りましょう?」
聖は慌てて離れようとする
歩きだそうとした瞬間抱き寄せられ唇が合わさる
そっと触れるだけの口づけ
ぼぅっとしてただ祐也の顔を見つめているとまた口づけをされた
次は深く強く。
「んっ…は…ぁ」未知の感覚に身体を強ばらせる
「ふふっ聖にはまだ早いかな…?」
そう言うと祐也は聖の手を取ってまた歩きはじめた
その後は聖の期待とは裏腹にそれ以上の進展はなかった
けれどそれからの生活は今までと違い生活に慣れるだけで精一杯で余裕もなくそういった事に考えが及ばなかった
ここでの日常は思い描いていた物とはかけ離れていたけれど一緒に居られるだけで幸せだった
呉服問屋の住み込みの仕事をはじめて一ヶ月が経つ頃には聖は蔵の品選びを任されていた
生来の品の良さとセンス、見目の可愛らしさから女将から表番…客接待など…を望まれたが祐也が頑なにに許さなかった
女将も「そう?」とだけ言い何か考えを巡らせてから今の仕事を割り当てたのだ
どう見ても聖の出自の良さは隠せない
が、この時代、華族の妾腹の子供が跡目争いに敗れ市井に落ちる事などたくさんあったからだ
女将にとっては良い拾いものだったようで必要以上の事は聞くことは無かった
…ある日の事聖と女将が蔵の整理をしていると
「…?女将さん この長持は?鍵が掛かっているようですが?」
「あぁ?それ?」と言うと懐の鍵束の中から一つの鍵を選び長持を開けた
中に入っていたのは花嫁衣装だった
「私が着た物よ…娘もいないから仕舞いっぱなしだったわね」
そう言って見せてくれた純白だったろう着物は長い年月の間にくすんでいた
ぼぅっとそれを見つめていると女将は信じられない事を言う
「良かったら貴方にあげるわ?こんな古着でよければ」
女将が自分と祐也の関係を知っているはずもなかったが 薄々感ずいているのかもしれない
だが嬉しい申し出だった
「ほんとにいいんですか?」
思っているよりはしゃいでしまいクスクス笑われる
「あぁそれと…」
恐縮する自分を尻目に言葉を続けた
「この一ヶ月休み無しでご苦労だったわね。明日は一日休みになさいな」
「祐也さんも一緒にね」と付け加えて
女将さんに仕事ぶりを認められたようだ
これからも頑張ろう…そう思って聖は花嫁衣装を腕に抱いて部屋に戻った
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