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4:世界で一番
翌朝、陸は腫れた頰を抑えながら、家を出た。
昨日、陸はキスを繰り返すうちに、うっかり桐崇の服の裾に手を入れてしまい、ぶん殴られてしまったのだ。
(やっぱり、セックスまで五年コースですか)
陸は小さく息を吐いて、玄関を出ると同時に隣の家の玄関も開いた。出てきたのはユウ。お互いに目が合った瞬間に気まずさに固まった。
陸は今の今まで、ユウの事を考えたこともなかった。あの後、ユウはどうしたのだろう。自分の気遣いのなさを恨みつつ、陸はユウに声を掛けた。
「ユウ、昨日は……」
「謝らないで」
陸の言葉をユウは遮った。
「ボクが悪いんだ。たまたま発情期の抑制剤を飲み忘れちゃって、りっくんに迷惑かけちゃったから。
ごめんね。だから、昨日のことは忘れてよ」
微笑を浮かべつつも、毅然とした態度でそう言い放つユウは、昨日までの彼とは違う気がした。
ユウは陸の返事を待たず先に行ってしまった。陸も桐崇との待ち合わせ場所へと向かった。
桐崇はいつも通り、いつもの場所に立っていた。
おはようと声をかけると桐崇の視線は陸の腫れた頰へ向けられた。桐崇は申し訳なさそうに眉を寄せた。
「昨日は、その、殴ってごめん」
「手を繋いでくれたら、許してあげる」
「それは出来ない」
(即答……)
陸はいじけて、足元の小石を蹴飛ばした。
「昨日はあんなに優しかったのに」
「君があんなこと言うからだろう」
「あんなこと?」
「……世界で一番好きなんて言われたら、敵わない。反則だ」
「桐崇は言ってくれないの?」
「やめろ」
「俺は言ったのに」
「頼んでない」
取りつく島もない桐崇に陸は小さく息を吐いた。せっかく縮めた距離がまた振り出しに戻った気分だった。
その時、柔らかい手が陸の指を包んだ。桐崇が陸の手を緩く繋いだのだ。
「……誰か来るまでだぞ」
ぶっきらぼうに言う桐崇に陸は笑いながら頷くと、二人はゆっくりと歩き出した。
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