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第1話・誰だ
死んだばあちゃんから聞いた事があった。
遠くの空を見上げて、雲の切れ間に龍が立ち昇る様を一度でも見る事が出来たら、生涯幸せになれるんだよ。
どういう事?と聞くには当時の俺は幼すぎて、興味が湧く歳になった頃にはばあちゃんはこの世から居なくなってしまった。
両親は俺が産まれてすぐに飛行機事故で他界。
引き取ってくれたばあちゃんも俺が五歳の時に病気で他界。
身寄りのなかった俺は施設に引き取られ、高校を卒業するまでそこで面倒を見てもらった。
限りなく自由の無かったこれまでと比べると、今はなんと開放的だろう。
このジメジメした梅雨空でさえも笑顔で見上げられる。
──あ痛。 目に雨粒が入った。
目を擦り、もう一度梅雨空を見上げる。
今度は気を付けて、傘でガードしながら。
「あっ……」
俺は瞬きを忘れて小さく声を上げた。
視線の先には、どんよりとした雲の切れ間に立ち昇る銀色の龍。
絵本から飛び出してきたかのようなそれを見たのは、これで三度目だ。
もはや見慣れて驚きも何もない。
ていうか、ちょっと待ってよ。
ばあちゃんは確か、この光景を一度でも見たらラッキーボーイだよ的な事を言ってなかったっけ。
…俺、これで目撃したの三度目なんだけど。
一度目は小学生の時、帰宅途中の夕焼け空で。
二度目は中学生の時、立入禁止の屋上に忍び込んで見上げた青空の先で。
三度目は、今だ。
その三回ともがこの梅雨時期だけど、雨雲に消えて行ったのは初めて見た。
しとしとと降り続く雨に逆らい、雲の切れ間に消えた銀色の龍。
不思議だ。
三度も目撃してしまうと、まだラッキーな出来事には遭遇してないけど、ばあちゃんのおとぎ話を信じてみようかという気になる。
「まぁ信じたところで…だろうけど」
『お主とはつくづく縁があるようだな』
──なんだ、今の声誰だ。
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