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第2話・会話

 突然頭の中に飛び込んできた低い声に、俺は辺りを見回した。  まだ夕方のはずだけど雨雲が濃くて夜みたいに暗い。  自宅アパートまでの道は人通りも少ないから今は俺しか居ないのに、その声はとても鮮明に、ハッキリと聞こえた。  ──やめてよ…俺オカルトとかホラーは苦手なんだってば。 『私だ、 水景(みかげ)。 お主の脳に直接語り掛けている』 「ちょっ、「私だ」って誰だよ! 気持ち悪いからやめろ!」 『気持ち悪いとは失礼な。 待っていろ、今からそちらに行く』 「え!? いや、来なくていい! 姿を見せるな!」  マジで何なんだ!  古くさい話し方の男が脳に直接語り掛けてきているらしい。  にわかには信じられないけど、確かに聞こえてくる声に立ち止まってキョロキョロする俺は、道端で独り言を喋るヤバイ奴になっていた。  来なくていいと叫んでから、不気味でたまらず家までの道をダッシュする。  その間も、俺にだけ聞こえる声が止む事はなかった。 『久方ぶりに人間の姿になるわ…歩き方から練習せねばならんな。 水景の家に大福はあるだろうか』  俺甘いもん嫌いだからウチに大福はねぇよ! 『なんだ、残念だな。 水まんじゅうはあるか』  だから無いって!  てか話し掛けてくんのやめろ! 『土産を用意させているから少しばかり待たせてしまうが許せ』  いや待たないから!  お願いだから姿見せないでくれ!  この意味不明な状況めちゃくちゃ怖いんだよ! 『うむ。 幼い頃から変わらず元気だな、水景は』  親戚の叔父さん!?  俺に身寄りはないはずだから、お前は、あの世に行った俺の血族の誰かなのか!? 『いや、私と水景は血は繋がっていない。 血縁になると子が孕めないから往生する。 …おい、その金貨はこの時代では使えないだろう。 現代のものを用意しないか、気が利かないな。 水景が待っているのだから急げ』  いや待ってない待ってない!  マジで何を言ってんだこの男!  何やら俺の知らない時空の中で男が誰かと会話してるみたいだけど、何故か相手の声は聞こえてこない。 『悪いな。 手下が使えない』  大丈夫!  そもそも俺はあんたを待ってないから! 『よし、準備が整った。 今から参る』  えぇ!? 来なくていいって言ってんのに!  どうしたらいいんだ、俺は。  この状況、死んだばあちゃんなら説明できる?  一体お前は何者なんだと聞きたくても、「参る」と言ってからは急に男の声がたち消えた。  すでに俺は声を発する事なく、脳内で男と会話をしていたと気付いて床にへたり込んだ。  呆然と、窓を流れる雨粒を眺める。  誰か助けて…変な男が今から俺ん家に来るって言ってるんだ…。  謎のオカルト現象に身震いが止まらなくて、雨足が強まってきた窓辺から離れた──その瞬間だった。 「っっ!?」  眩い光が狭い室内全体を包み込み、完全に視界を奪われた。  目が開けられないほどの強い光に、訳も分からず右腕で顔をガードしてみる。 「水景、迎えに来たぞ」 「───!?」  かなり近いところで頭の中の声がした。  光が落ち着くのを待って、恐る恐る目を開けてみるとそこには…背の高い、銀色の髪が腰まである男が無表情で立っていた。

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