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第一章・白虎の燥①

 ――他の皆には内緒だよ?  中島敦は探偵社の先輩である太宰治の口淫に拠り達して仕舞った。  其の数分後、着衣と呼吸を整えた敦が事務所へと戻ると、一足先に戻った太宰と国木田独歩は何食わぬ顔で調査資料に眼を落とし話し合って居た。更に其の前には二人は会議室にて激しく絡み合って居た。今の様に何事も無く顔を合わせられるという事は、敦の知らない処で二人はもう何回もあのような行いを繰り返していたのかも知れない。  「御早よう」と笑顔を向ける太宰が、時間にも太宰にも厳しい国木田が、竟数分前迄激しく絡み合って居たかも知れない。  たった一度きりの口止め料。其れは敦の脳裏に鮮明に、そして生々しく焼き付いたのだった。 「……太宰さん、太宰、さんっ……」  包まれた温かい咥内、其の感触が残って居る内に。何時でも涼しげに微笑む、あの端正で奇麗な顔を、国木田との様に、恍惚に歪ませてみたいと考えて仕舞う事は、男として当然の事だろう。 「…………あぁッ」  此の掌の中の白い欲望を、彼の人の顔に飛ばしたら―― 「………………」  泉鏡花は押入の中での出来事を既に知っていた。何処で知識を得たのかは定かでは無いが、男性の生理的欲求である事は知っている。  音も立てずに鏡花は部屋を出る。敦も訊かれていた事を認識したら気拙いだろう。上着だけを羽織り部屋を出た処で遭遇したのは夜遊びの帰りだろうか、太宰。 「鏡花ちゃん? こんな時間に如何し――ッ!」  鏡花の背後で夜叉白雪が抜刀の姿勢を見せる。声を出されたく無いのだろうと察した太宰は直ぐ様言葉を呑み込む。人の事情は其々といえど、深夜の時分明らかに外行きの服装では無く寝間着に上着を羽織った儘の様子は尋常では無い。同居している敦に何か有り扶けを求めて居るのだとしたら声を出すなという表現は可笑しい。  太宰の姿が擦り硝子に映った事に気付いた国木田は何事かと部屋の扉を開ける。太宰は咄嗟に人差し指を口の前に立て国木田にも閉口を促しつつも、今の恰好では風邪を引くだろうと鏡花を促し国木田の部屋内へと誘導した。

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