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第一章・白虎の燥②
「――で?」
太宰がそっと扉を閉めると寝間着姿の儘の鏡花と太宰を順に見て国木田は眼鏡を上げる。
「人の部屋の玄関前で何をしていたんだ二人共」
「私も今戻って来たばかりだからね。 すると鏡花ちゃんが其処に居たものだから」
「まあ善い茶でも淹れよう。 鏡花は其の儘では風邪を引くだろうからな」
腑に落ちぬ点は多々あれど、体調管理が一番と当事者であろう鏡花を部屋の奥へと勧め、国木田は湯を沸かす為に台所に立つ。
「敦君と喧嘩でもしたのかい?」
奥の部屋に通された鏡花は遠慮がちに正座をしつつも、屈み込んだ太宰からの問いには静かに首を左右に振る。
盆の上に三つの湯呑みを乗せて国木田が戻って来ると、国木田は先ず一番に鏡花の前に其れを置いてから腰を下ろし胡座を掻く。程佳く酒気帯び状態であった太宰も差し出された湯呑みを両手に持ち少量ずつ喉へと流し込む。
両手で持った湯呑みの温かさに安心をしたのか、鏡花は少し考え手許に視線を落とした儘小さく唇を開く。
「……彼の人が、自慰をしていた」
「ぶほっ」
湯呑みに口を付け掛けた国木田だったが、鏡花の衝撃的な一言に噴き出す。
ゆっくりと息を吐いてから気持ちを定め顔を上げた鏡花は其の視線を太宰へと向ける。
「貴方の名前を繰り返し呼んで居たから、対象は貴方だと思う」
「あっつい!」
唐突に視線を向けられ何事かと思った太宰だったが、続いて放たれた言葉に動揺し手に茶を零す。
「……男の人が自慰をする事は可笑しな事では無い。 以前も……貴方の名前を呼び乍ら自慰をしている人が居たから」
「待ち給え鏡花ちゃん、其れは今要らない情報だからね」
誰が太宰を想い自慰をして居たのかは太宰は訊かずとも解る事だった。鏡花がポートマフィア時代に接点がある人物と考えれば其れは一人だけだろう。
「あー、その、何だ」
敦に限らず身に覚えが有る国木田は一つ咳払いをして解決策を考える事とした。
「敦も年頃だからな、そういう事が有るのも仕方無い」
「其の辺りを失念して鏡花ちゃんに同居を宛てがって仕舞った私達の方にも責任が有るからねえ」
「責任を取って太宰、お前が暫く敦と同居しろ」
「えー私が? 夜遊びが出来なく為るじゃあないか!」
「夜遊びをさせない為に敦を監視に付けるという名目ならば誰も文句は云わんだろう」
「割とえぐい事を考えるよねえ国木田君」
「何がだ?」
個人の繊細な内容を先輩に告げ口するようで気が咎めた鏡花ではあったが、二人の会話から敦を傷付ける事無く事が落ち着きそうだと解ると安堵からか薄く笑みを浮かべた。
【選択】
――一、太宰と同居
――二、国木田と同居
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