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第一章・白虎の燥③

 敦が太宰と同居するという話は、翌日出勤をした早々国木田の口から敦に伝えられた。 「訊く処によれば押入で寝て居るのだろう?」 「え、厭僕は押入でも何も困って居ませんが……」 「兎に角、決まった事だ」  太宰を想い達した後、暫く倦怠感に身を委ねて居た敦だったが、意識を持ち直し塵紙を取ろうと押入の襖を開けた時、静かに寝入って居た鏡花に気付いた。年頃の少女と同居していた事に敦は其の時改めて己がとんでもない事をして仕舞ったと気付いた。抑えるべき衝動と内から込み上がる劣情。鏡花の事を思えば自分から同居の解消を云い出すしか無かった。其れがよりにもよって性の対象として見て仕舞って居る太宰との同居とは、敦には青天の霹靂だった。 「く、国木田さんとの同居では駄目なんですか?」  国木田との同居はあらゆる面で息苦しそうだ。其れでも今太宰と同居するよりは何百倍もマシだと敦は考えた。 「俺との同居では息も詰まるだろう。 太宰は寝る時以外部屋に居る事は少ない」 「で、でも……」 「敦くぅん、そんなに私の隣で寝るの嫌い?」  嫌いの真裏で性的興味を抱いているからこそ遠慮したいのだと声を大にして云いたい敦だったが、隣で寝ると云う言葉に表情が引きつる。 「……え、隣で、ですか?」 「当然だ、太宰相手に押入で遠慮する必要は無いぞ」 「今日は男同士ゆっくり語り合おうではないか!」  敦の意見はほぼ通らぬ状況で、太宰との同居が確定してしまった敦。夜が来る事が此れ程迄に怖いと思う事は無かった。  部屋を移すといえど敦の荷物は其れ程多くも無く、抑々恒久的なものでは無いので必要最低限の物だけを持ち其の夜太宰の部屋へと移った。 「御世話になります……」 「やァいらっしゃい敦君!」  普段ならば此の時間には部屋に居ない筈の太宰も敦を迎える為に寄り道をせず帰宅して居た。過去に何度か足を踏み入れた事の有る太宰の部屋は酒瓶が転がっており決して奇麗とは云い難いものであったが、敦との同居の為か粗方整頓はされているように見受けられる。  片付け切らない部分は敦も手伝い、時計の針が二十二時を回る前には二人分の布団を敷き並べられる迄に片付いた。 「いやあ手伝って呉れて有り難う。 先に湯浴みをして来るかい?」 「あ、お風呂は此方に来る前に彼方で済ませて来たので僕は大丈夫です」 「ならば私が頂いて来ようかな……噫そうだ敦君」  着替えを纏め浴室へと向かう直前に脚を止めて太宰は振り返る。 「鏡花ちゃんも立派な淑女だ。 君の欲求を抑制したいとは云わないが、彼女と同じ空間内に居るからには多少の我慢も必要だったね」 「……!」  其れだけを云って太宰は浴室へと向かう。昨晩の事が何時知られて仕舞ったのか、敦は顔面蒼白となりつつも只太宰の背中を見送った。

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