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地方人は優しい

転校生の転校前のお話 ある日突然、母さんと父さんはデレデレした顔で赤ちゃんが出来たと告げた。いつかはそうなると思っていた。だが、流石に歳を考えて欲しいものだ。 一時的に引っ越すと言われ、東京に残るかそれとも一緒に行くかと選択を迫られた。どちらを選んでも、母さんは心配性の父さんが病院に入院させるだろうし、その父さんは仕事だ。東京に残ろうがついて行こうが一人なのは変わりない。 ただ、別に東京に思い入れがあるわけでもない。個人的には田舎暮らしに興味もある。でもそれこそ田舎に馴染めるかどうか分からない。悩んでいるとき、父さんは一度試しに行ってみるといいとチケットを渡してきた。 飛行機と電車、バスに揺られてたどり着いたのは山に囲まれた村。高いビルが立ち並ぶ都会とは違い、古民家ともとれる住宅が立ち並んでいた。 「空気が美味しいな。」 「空気なんぞ、美味しいも不味いもあるか。」 「…君、誰?」 「そっちこそ誰や。見たことない顔やな。まさか、と、東京人か?」 バスに降りて、坂を降りた先。独り言を呟いていると、木の上から声が聞こえてきた。そこには俺と同じ歳ぐらいの少年が木の枝にぶらさがっていた。 「東京から来たけど、なんで君はそこにいるの?」 「かー!んなの、決まっとる。暇やからや。」 「暇だから木に登るの?変わってるね。」 「変わってなか。それに今日はたまたま登っただけや。…今日はゲームをする日って決めてたん。あっ、田舎ば、ゲームはあるんよ。発売されるの遅いけどな。でもな、残念ながら今日は家から追い出されたんや。」 「それはなんで?」 「テストで赤点とったんよ。そしたら、おかんがゲームせんで少しは勉強せんがないかんって。やかましかぁ。んで、じーちゃん家避難しようとしたら畑の手伝いせぇ言われるし。やから頃合い見て逃げてきた。」 「ふーん。」 ゲーム、ゲームと言っているわりに健康的な肌をしている。きっと、おじいさんのお手伝いで焼けたんだろう。 「そんで、東京人はなんでこんなど田舎に来たんや。」 「それは…少し事情があってね。」 「はっ、それならその事情さっさと片付けて帰り。んでもって、もうくんな。都会人は嫌いや。」 その割によく話す。嫌いなのにここまで自分のことを話すなんて面白い子だ。それとも、田舎の子はみんなそうなんだろうか。 「ねぇ、ここの案内してよ。君の好きなところでいいからさ。」 「面倒くさいけん、いや。」 「…そうか、田舎の人って優しいって聞いたけど、本当は冷たいんだね。」 「はっ、んなわけないやろ。ついてきぃ。俺は優しいけん、連れて行っちゃる。」 ちょろい。 それから案内してくれたのは小さな洞窟がある場所や神社、それに村全体を見渡せる高台だった。 「どうや、田舎言うても絶景くらいあるんやよ。都会とは違って人工的やなか。なかなかええとこやろ。」 この子は自分の住むこの村が好きなんだろうな。そんな感じがする。 「綺麗だね。」 そう言えば、嬉しそうに誇らしそうに笑った。 もうそろそろ帰りの時間だ。そう告げると、どこか寂しそうに少年の顔は歪んだ。しかし、すぐにふんっと顔を背ける。 「都会人はさっさと帰り。」 「また来るね。」 「来なくてよか。」 「うん、分かった。」 「へ?」 「冗談だよ。またね。」 間抜け面から真っ赤な顔にしてぷんすか怒る。その顔がどうにもツボで可愛かった。きっと、もっと揶揄えば、もっと可愛い顔で怒るのだろう。 ああ、早く、早く早く。 また、会いたいなぁ。 知らず知らずに落ちた恋で理性を保てなくなるまで後少し。

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