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嫌がってないのはわかるけれど、江彦の動揺っぷりにのぼせたのか、そんなつもりはなかったのかと、いろんな意味で少しだけ不安になった。
せっけんの滑りを借りてくるりと体の向きを変えて江彦と向き合う。
「なんだよ、してくんねえの?」
俺が使って効果があるのかわからないけど、ちろりと上目遣いで江彦を見つめれば体当たりをするような勢いで抱きしめられた。
「それに、俺将来ひこん家の人たちに、姐さんって呼ばれるんだし。なんか飯くらい作れないとまずいだろ」
「健斗っ! エッ、しししし知ってたの!?」
「俺がひこのことで知らないことなんてねえよ。隠したがってるみたいだから黙ってたけど」
ふふんと鼻で笑う健斗とは対照的に江彦の顔色は赤から青に変わる。忙しいなあとのん気に眺めていた健斗だったが、両腕を掴まれて江彦の必死さに気が付いた。
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