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紫君子蘭-Agapanthus-.3

俺の気づかないうちに、彼は風呂から上がっていた。 「何が目的だ?」 「っ、え?」 「オレみたいなやつ家にあげて、これか?」 そう言って彼は口をぽっかり開けて、口の前で親指と人差し指を使って丸を作った。 「っ!」 「…違うのか。」 彼はとても怪訝そうな顔をしていた。 本来であれば、怪訝そうな顔をするのは俺の方のハズだ。 「じゃあ、何を差し出せばいい。」 「…見返りなんて、求めていないよ。俺はただ、あめに濡れるきみが心配だっただけ。」 「なあ、あんた――」 「俺の名前は秋霖。」 ふっ、と彼は俺の耳元に顔を寄せ すっ、と息を吸った。 「…シュウリン。」 全身の血液の廻りが早まるのを感じた。 そして気づいたら、キスをされていた。

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