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第2話 憧れの同棲生活
俺、山田 青18歳の盛大な勘違いで無駄にセルフで傷ついたり戸惑ったりしてからはや1ヶ月半。ようやく新居への引越しも残すところ荷解きだけとなっていた。
今日から愛しの涼太との同棲生活が始まる!正式には同居だけどな!わはは!
何にしろ俺は今、生まれて来て初めてと言っていいほどハイテンションになっているんだ!
ハイテンションなイケメンに不可能はない!
「おまえ、元気よすぎねえ?」
猛スピードで共有スペースとなるリビングの荷解きをしている俺を見て、引越しと連日の仕事で疲れきっている涼太が冷ややかに声をかけてきた。
「ソファだけでも設置しなきゃ、涼太が横になれないと思ってさ~、イケメン様の優しさ、わかってねえな」
上がっているテンションを誤魔化すように俺はふざけるように涼太に言い返した。
「イケメン様ねー、まあ確かに青はかっこいいよな身長も高いし、おんなじ高校だったとは思えねぇくらい、いい大学入ったしな」
え?なになに?急にほめてくるとか・・・
ドキドキしちゃうだろーが!
相変わらずの無表情でなに言ってくれちゃってんの?
「ほら、ソファに座っていいぞ」
ソファを設置し終えた俺は壁にもたれて座っている涼太に声をかけた。
寝てる・・・
片足を投げ出し、膝を立てたもう片方の足に抱きつくように腕を回し頭を膝にのせて、規則正しい寝息をたてて涼太は寝ていた。
疲れてんだな・・・だよな、俺が講義中に居眠りしてる間もこいつは、がんばって働いてんだもんな。
そう思うと涼太がたまらなく愛おしく思えて、胸がきゅ、と締め付けられた。
ソファに運んでやらなきゃな、そう思った途端、なんだかやましい気持ちがふつふつと湧き上がってくる。
俺は疲れてついつい床で寝てしまった涼太をソファに運んでやるだけなんだ!親切心!親友が風邪なんかひいて仕事を休んだりなんかしないように、親切心から抱き抱えてソファに運んでブランケットなんかをかけてやるつもりなんだよ!
・・・って、俺は誰に言い訳してんだよ。
気を取り直して涼太の横にしゃがみ込んで、抱えようと涼太の膝の裏に腕を差し込む。
涼太のバランスが崩れて頭が膝から滑り落ち、目の前に涼太の白く細い項が伸びた。瞬間、俺の中にどうしようもなく不純な気持ちが湧き上がった。
この項に思いっきり噛み付いて跡を残したい。
白い肌を吸い上げて俺の跡を付けてやりたい。
そんな気持ちをどうにか鎮めて、高校時代より少し細くなった涼太の体を抱き上げる。
体の力が抜けているせいか、重みは多少あったが、それでも涼太の体は思ったより軽かった。
壊れ物を扱う様に涼太の体をソファに預けた。
顔を覗き込むと、疲れのせいか青白く、閉じられた瞼から伸びる長いまつ毛越しにクマができていた。
眠っている涼太は、いつもの無表情により一層磨きがかかっているように見える。
キス、してえ
行儀よく寝息をたてる涼太の形の良い小さな唇に近づいて、唇と唇が触れるまであと1センチのところでとどまる。
起きてくれよ、起きなきゃこのままキスされても文句言えねえぞ、涼太・・・
そう思っても、あと1センチの距離が縮められない。俺はヘタレだな・・・
涼太に嫌われたくない。
それだけの思いで踏みとどまっている。
俺はそっと涼太から離れて、自分の寝室からブランケットを持って来て涼太にかけ、ソファの横に座り込んだ。
「ん、あさみさん、これで・・・あってますか・・・」
寝言でも仕事してんのか?大変だな・・・
っておい!誰だよ誰だよ、あさみさんて!ふざけんなよ、いくら上司でも女の夢みてんじゃねーぞ涼太!
俺の耐え忍んだ気持ちは何だったんだよ!
俺はさっき我慢した気持ちが抑えられそうになかった。
もう無理だ、ぜってーやってやる。寝言で女の名前呼びやがったおしおきだ!
もう一度、涼太の薄く開かれた唇に今度こそ、勢いで思いっきり近づく。
嫉妬と欲望で腹ん中がぐちゃぐちゃになってるみたいだ。
あと1センチ、あと5ミリ、あと3ミリ・・・
「う、ん?あお?」
寝ぼけながら涼太が至近距離で目を覚ます。
「あ、起きた?だいじょぶ、かよ、おまえ、いきなり寝てん、だもん、相当、疲れてたんだな、まだ、横に、なってろよ」
しどろもどろになりながら涼太から離れる。あっぶねぇ!ほんとにキスしちゃうかと思っただろーが!
腹ん中ぐちゃぐちゃにしながらも、俺の中の冷静な部分が少しほっとしていた。
あのままキスしたら、もう歯止めがきかなくなんだろ。涼太が起きてくれてよかった。同棲初日でつまづくなんて辛すぎるからな。
「イヤ、もーだいじょうぶ、悪ぃな、運んでくれたの?」
ブランケットを畳みながら涼太が起き上がる。
「あー、上司に怒られてる夢見ちゃったよ、最悪。まあ、美人上司だからいいんだけどな」
無表情な涼太の言葉が俺にグサッっと突き刺さる。美人、なんだな、あさみさんは。
俺はどんなにスペックが高くても、涼太の恋愛対象にはならない。なれない。
数時間前まであんなに上がっていたテンションはもう地中深くまで下がっていた。
「なんだよ、さっきまであんな元気だったのに。腹でも減ってんのか?もう夕方だし、飯でも食いに行くかー」
そう言って、涼太は呑気にあくびしながら出かける準備を始めた。ほんとくっそ無神経ヤローだな、こいつ。だけど俺はお前にこんなにも心臓を鷲掴みにされてんだよ。とは口が裂けても言えねぇ。
同じドアから出た外の空気は、目眩がするような真夏の暑さだった。
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