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第3話 天然ノンケの職場事情

涼太と同棲し始めて1週間。涼太の仕事が忙しく、すれ違いの日々が続いていた。 涼太はいつも朝7時半には部屋を出て、帰りはだいたい22時過ぎ。俺は8時に登校して夜は家庭教師のバイト。21時過ぎには帰宅。 顔を合わせるのは朝の僅かな時間と就寝前のほんの数十分だけだった。 てことは、一緒に住んでる俺よりも美人上司の"あさみさん"の方が涼太と一緒にいる時間が長いんじゃん! これは涼太ラブな俺が見過ごせる案件じゃねえだろ。 今日は日曜だというのに、ほかの友人達は予定があり遊ぶ相手もいない。カテキョのバイトも入っていない。もちろんデートするような相手もいない俺は、涼太の働くショップに偵察がてら足を運ぶことにした。 部屋の掃除をして溜まっていた洗濯物を片付け部屋を出る頃には、時計の針は13時を過ぎていた。 涼太の就職先は日本国内外に100店舗以上のショップを展開する大手ファストファッションの企業だ。 「いらっしゃいませー、どうぞごらんくださーい」 店内に入ると女性スタッフの甲高い声に出迎えられる。 さすがに日曜の昼過ぎは混んでるな。 たくさんの客がいる広い店内でたった一人の姿を探す。 いた。 若い女性客の対応をしている涼太を見つけて、思わずトクン、と心臓が音を立てた。 中学生か、俺は。 にしても、あいつ無表情のくせに接客なんて、ちゃんとできんのかよ?そんな心配をよそに、あいつは整った顔でやわらかく微笑んでいる。 反則だろ、その顔は。俺だってそんな顔した涼太、見たことないんですけど。 女性客は涼太の案内でお目当ての服が見つかったのか、涼太が軽く会釈して去っていった後、一緒に来ていた友人と「今のスタッフさんちょーカッコイイんですけど!いい匂いしたし!」などと言って盛り上がっている。 俺の涼太の匂いとかかいでんじゃねぇよ! イラッとする気持ちが湧いてくる。傍から見れば涼太もかなりイケメンだよな、きっと。 透き通るような白い肌に少し色素の薄い綺麗なアーモンド型の瞳。それほど高くはないが鼻筋も通っていてかわいらしい鼻。唇は厚すぎず薄すぎず、小さめで整っている。髪は少しアッシュがかったベージュで前髪が眉にかからないくらいのショートで涼太の綺麗な顔に良く似合っている。 女が騒ぐのもわかるな。まあ俺ほどじゃないけどな。 ・・・とこんなこと考えてる場合じゃない、涼太に声掛けねぇと。 しばらく店内を見ながら再度涼太の姿を探していると、バックヤードと繋がるドアから涼太が出てきた。 「涼太」 「あっれ~、どしたの青、買い物に来てくれてんの?」 いつもの無表情に戻っていた涼太が俺に向かって歩いてくる。その後ろに俺たちより少し年上に見える綺麗な女性が見えた。もしかして・・・ 「あさみさん、こいつです、オレの同居人」 出た!あさみさんとやら! とりあえず挨拶しとくか。 「こんにちは、いつも涼太がお世話になってます」 「こんにちは、同居人さんお母さんみたいな事言うんだね、適度に優しくお世話してるから安心してね」 しまった、牽制したつもりが逆になんか変化球投げられた気分だ。 あさみさん、涼太が認める美人上司。さすがに美人だな。スレンダーな体にぱっちりおめめにぷくっとした唇。ミディアムボブの茶色い柔らかそうな髪にはかるいウェーブがかかっている。たいていの男なら落とせてしまいそうなくらいの美人だ。これはやべぇぞ。 「お友達来てるなら一緒にお昼とってきたら?また後でね」 そう言ってあさみさんは、外へ出ていった。 「オレ今から休憩なんだよ、昼飯もう食った?」 そういえば朝からなんも食ってねえ。 「俺もまだ、そこのカフェでなんか食おーぜ」 あさみさんの登場で、危機感は強くなったが、久しぶりに一緒に飯食えるなんてラッキー♡ 涼太の職場から車道を挟んで向かいにあるカフェに入り2階の窓際の席に座った。 涼太はロコモコ丼を、俺はオムライスを注文した。 「あれが例のあさみさんか、確かに美人だな」 涼太が彼女の事をどう思ってるか探りいれとかねえとな。 「だろ、美人だよな~、俺達の4つ上、いいよな年上美人てマジそそられるよな」 やべぇ、早くも突き落とされてんじゃん、俺。 「ちょっと、いや、仕事ではかなり厳しいんだけど、休憩中とかは優しいんだよな~、あんな女とヤレたら最高だよな~」 「おまえさ、そーゆー下品なこと真顔で言うなよ」 やっぱりか、やっぱりあの女でやらしいこと想像してたか、この無神経ポーカーフェイスヤローは。 ムカつくけど、こいつのこういう所が女を遠ざけてる要因でもあるから、俺にとってはありがたい所ではあるんだ・け・ど!だけどあんな余裕のあるお姉様ならそんなとこも許容してしまう可能性はある!なぜなら、こいつはムダにイケメンだからだ。そして普段は一切使わないハニカミを仕事では駆使している。 涼太の笑顔はマジで隕石レベルの破壊力だからな。やべえ、さっきのこいつのハニカミ思い出したらドキドキしてきた。 向かいで無表情でロコモコ食ってるやつが、あのハニカミ使えるんだもんな・・・ まじまじ涼太の顔を見ていたらふと顔を上げた涼太とバチッと目があった。 「なんだよ、なんか言いてぇ事あんの?」 いつもの無表情で涼太が言う。 「いや、仕事中のおまえのハニカミにびびったなと思って」 びびったのは本音だ。だけどそれだけじゃない。同時にモヤッとした気持ちと胸がぎゅっとなる気持ちも感じてたけど。 「あ~食った。もうそろそろ戻んねぇとな、先出るわ、これオレの分な」 そう言って立ち上がる涼太に、がんばれよ、と声をかけてもう一度目が合った瞬間・・・ 涼太が軽く微笑んで 「どーだ、オレだって一応社会人なんだよ、愛想笑いくらいするって。おまえの前だと愛想笑いする必要ねぇからな」 俺はふわっと笑って立ち去ろうとする涼太の腕を無意識につかんでいた。 やべぇ、まじでなんなんだよおまえ。 クッソかわいいじゃねーか。 このまま、あの女のいる場所に行かせたくない。今すぐこの腕を引き寄せて細い体を俺の腕の中に閉じ込めたい。 「ってえな、まだなんか用あんのかよ」 無表情な涼太の顔が、俺の掴んだ腕の痛みで少しだけ歪んでいるのを見て、はっと我に返り捕まえていた腕を解放した。 「ごめん、なに言いたかったのか忘れちゃったわ」 「なんだよ、わけわかんねぇやつ、じゃあ家でな」 戻っていく涼太の後ろ姿をカフェの窓から見つめていると ん?あの女~! 休憩から戻るあさみさんが涼太に声をかけ、ふたりで店の中に入って行くのが見えた。 はあ~、っとため息が出てしまう。 それにしても、さっき涼太の痛みに歪んだ顔、妙にエロくなかったか? いやいやいや、痛がる顔に欲情するとかどんだけ変態だよ、しっかりしろよ、俺! この時の俺はまだ何にも知らなかった。 あさみさんの存在が、俺と涼太の関係を大きく変えてしまうという事を。

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