24 / 210
第24話 嵐を呼ぶ女 1
「う・・・ん?」
「涼太、起きた?」
「・・・」
「・・・からだ、大丈夫・・・じゃ、ないよな・・・」
涼太は一度ゆっくり目を開けたが、昨夜、かなり無理させたせいか、起き上がることが出来ず、また目を閉じて静かに寝息をたてた。
はああああ~・・・
なんで俺、こんなになるまでやっちゃうんだよ!
昨日、反省したはずなのに!涼太を怒らせて、あんなに落ち込んでたはずなのに!
うつ伏せで眠る涼太の髪を撫でていると、どうしようもなく愛しい気持ちになって、こんな状態の涼太にまで襲いかかってしまいそうになる。
さすがにダメだろ・・・ほんとに、どうかしてる・・・
「ごめんな、涼太。酷くしてごめん。離してやれなくてごめん。こんなに好きで、ほんとごめんな」
寝顔にしか言えない自分が情けない。
俺は、そばにいたい気持ちを押し殺して、頭を冷やすために涼太の寝室を出た。
ガチャ
昼近くになって、涼太の部屋のドアが開く音がした。
どうしよ・・・今更だけど、どんな顔して・・・
ガチャン
あれ?トイレ?・・・そっか、俺、中に出しまくったから!
「涼太?大丈夫か?」
ドア越しに声をかけてみる。
「・・・だいじょうぶなわけねえだろ」
掠れた声で返事が返ってくる。
「ごめん。マジで」
「・・・あんだけやってから、今更謝んなよな、変態絶倫ヤロー」
「う・・・すみませんでした・・・」
ごもっともです。返す言葉もないです。
「・・・腹減った。ハンバーグ食いたい」
「了解です!すぐ買ってきます!」
こんな時、ハンバーグひとつ作れない自分が悲しいぜ(泣)
近所のハンバーグ専門店で、チーズハンバーグをテイクアウトして帰ると、部屋の前に女の人が立っているのが見えた。
あの人、なんか見覚えが・・・
「ただいま」
「おかえり。ちゃんとチーズ忘れてないだろーな」
「涼くん」
「あ?・・・げ!みおり・・・」
ドスッ
「うっ!」
「姉さん、でしょ?」
「ねーちゃん・・・痛いっす・・・」
ソファに座っていた涼太の腹に蹴りを入れたこの女性。涼太の六歳上の姉、美織さんである。
家を出てから一度も帰ってない涼太を心配して、様子を伺いに来たらしい。
「涼くん、半年も連絡無いって、お母さんが心配してるの。ちゃんと連絡しなさい」
「なんでこの歳になってまで心配されなきゃなんねーんだよ!」
「口答えするならもう一発入れる」
「・・・ねーちゃん、オレ今、からだ、弱ってるんで勘弁してください」
「だいたい、あんた、昔っから変なのに寄り付かれてばっかだったんだから、親が心配するのも無理ないでしょ?」
美織さん、すみません。今も変なのに寄り付かれてます、涼太くん。
「だーかーら!青と一緒に住むっつったろ。それなら安心って、かーちゃんも言ってたし!」
全然安心じゃありません。すみません、お母さん。
「そのわりには乱れた生活してるみたいじゃない。なに?その首の赤いの」
おねーーーーーさん!すみません!それは俺が・・・
「こここっこれは、虫に刺されたんだよ!」
「へえ。まだ寒いのによーっぽどお腹を空かせた虫がいるんだねー。ねえ、青?」
げ。もしかして、なんか勘づいてる?
そして、なんで弟は「くん」づけで他人は呼び捨て?まあ、昔からだけどさ・・・
じーっと美織さんに無表情で見られると心が痛いぜ・・・
なんてったって、この姉弟、顔がそっくりだから。涼太に無言で責められてるような気分になってくるな・・・
「もー、いいから、早く帰れよ」
シュッ
追い返そうとした涼太の目の前で、美織さんの突き出した拳がピタッと止まる。
「久しぶりに会った姉に、お茶ひとつ出せない子に育てた覚え、ないんだけど?」
「ハイ。今出します。どうぞ座ってください」
この姉弟のやりとり、久しぶりに見たな・・・
美織さんは空手の有段者だもんな。涼太も中学まではやってたみたいだけど、きっと、かなわないんだろうな~。こえぇ~。
だけど、俺は美織さんの勘の鋭さの方が怖い気がした。
ともだちにシェアしよう!