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第24話 嵐を呼ぶ女 1

「う・・・ん?」 「涼太、起きた?」 「・・・」 「・・・からだ、大丈夫・・・じゃ、ないよな・・・」 涼太は一度ゆっくり目を開けたが、昨夜、かなり無理させたせいか、起き上がることが出来ず、また目を閉じて静かに寝息をたてた。 はああああ~・・・ なんで俺、こんなになるまでやっちゃうんだよ! 昨日、反省したはずなのに!涼太を怒らせて、あんなに落ち込んでたはずなのに! うつ伏せで眠る涼太の髪を撫でていると、どうしようもなく愛しい気持ちになって、こんな状態の涼太にまで襲いかかってしまいそうになる。 さすがにダメだろ・・・ほんとに、どうかしてる・・・ 「ごめんな、涼太。酷くしてごめん。離してやれなくてごめん。こんなに好きで、ほんとごめんな」 寝顔にしか言えない自分が情けない。 俺は、そばにいたい気持ちを押し殺して、頭を冷やすために涼太の寝室を出た。 ガチャ 昼近くになって、涼太の部屋のドアが開く音がした。 どうしよ・・・今更だけど、どんな顔して・・・ ガチャン あれ?トイレ?・・・そっか、俺、中に出しまくったから! 「涼太?大丈夫か?」 ドア越しに声をかけてみる。 「・・・だいじょうぶなわけねえだろ」 掠れた声で返事が返ってくる。 「ごめん。マジで」 「・・・あんだけやってから、今更謝んなよな、変態絶倫ヤロー」 「う・・・すみませんでした・・・」 ごもっともです。返す言葉もないです。 「・・・腹減った。ハンバーグ食いたい」 「了解です!すぐ買ってきます!」 こんな時、ハンバーグひとつ作れない自分が悲しいぜ(泣) 近所のハンバーグ専門店で、チーズハンバーグをテイクアウトして帰ると、部屋の前に女の人が立っているのが見えた。 あの人、なんか見覚えが・・・ 「ただいま」 「おかえり。ちゃんとチーズ忘れてないだろーな」 「涼くん」 「あ?・・・げ!みおり・・・」 ドスッ 「うっ!」 「姉さん、でしょ?」 「ねーちゃん・・・痛いっす・・・」 ソファに座っていた涼太の腹に蹴りを入れたこの女性。涼太の六歳上の姉、美織さんである。 家を出てから一度も帰ってない涼太を心配して、様子を伺いに来たらしい。 「涼くん、半年も連絡無いって、お母さんが心配してるの。ちゃんと連絡しなさい」 「なんでこの歳になってまで心配されなきゃなんねーんだよ!」 「口答えするならもう一発入れる」 「・・・ねーちゃん、オレ今、からだ、弱ってるんで勘弁してください」 「だいたい、あんた、昔っから変なのに寄り付かれてばっかだったんだから、親が心配するのも無理ないでしょ?」 美織さん、すみません。今も変なのに寄り付かれてます、涼太くん。 「だーかーら!青と一緒に住むっつったろ。それなら安心って、かーちゃんも言ってたし!」 全然安心じゃありません。すみません、お母さん。 「そのわりには乱れた生活してるみたいじゃない。なに?その首の赤いの」 おねーーーーーさん!すみません!それは俺が・・・ 「こここっこれは、虫に刺されたんだよ!」 「へえ。まだ寒いのによーっぽどお腹を空かせた虫がいるんだねー。ねえ、青?」 げ。もしかして、なんか勘づいてる? そして、なんで弟は「くん」づけで他人は呼び捨て?まあ、昔からだけどさ・・・ じーっと美織さんに無表情で見られると心が痛いぜ・・・ なんてったって、この姉弟、顔がそっくりだから。涼太に無言で責められてるような気分になってくるな・・・ 「もー、いいから、早く帰れよ」 シュッ 追い返そうとした涼太の目の前で、美織さんの突き出した拳がピタッと止まる。 「久しぶりに会った姉に、お茶ひとつ出せない子に育てた覚え、ないんだけど?」 「ハイ。今出します。どうぞ座ってください」 この姉弟のやりとり、久しぶりに見たな・・・ 美織さんは空手の有段者だもんな。涼太も中学まではやってたみたいだけど、きっと、かなわないんだろうな~。こえぇ~。 だけど、俺は美織さんの勘の鋭さの方が怖い気がした。

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