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第66話 悪意 3
「じゃあ、涼太さん、俺こっちなんで。お疲れ様です」
「お疲れ様。気をつけて帰れよ」
「俺より、涼太さんですよ。気をつけてくださいね。どんな奴がいるかわかんないですから・・・」
タケルと駅で別れて、うちへ向かう。
青もう寝てっかな?
24時過ぎちゃったし、遅くなったことになんのか?
何時過ぎたらお仕置きなんだよ・・・
ドンッ
「いてっ」
アパートの前で誰かとぶつかり、相手が倒れる。
「すいません。だいじょぶですか?暗くてよく見てなくて・・・」
倒れた女性に声をかける。
あれ・・・この人、どっかで・・・
女性は、着ている服が乱れていて、ブラウスのボタンが取れているのか、胸元がはだけている。
目が合って、ばっと胸元を隠した女性が立ち上がって走って行ってしまう。
え?なに?なんかやばそーだったよな・・・
にしても、どっかで見たことあるんだよな。
誰だったっけ?と考えながら部屋の前まで来て、何かを踏んだことに気づいて、足元の物を拾うと、パール調のボタンだった。
なんでこんなとこに落ちてんだろ。
あ!今、思い出した。あの女の人、『加藤さや』じゃん!
え、もしかして、このボタン・・・
加藤さやの服が乱れていた事と、落ちていたボタンが繋がってる気がする・・・。
嫌な予感がしつつ、ドアの鍵を開け中に入る。
「涼太おかえり」
「・・・ただいま」
青がすぐに近づいてきて、キスしようと顔を寄せてくる。
「待って、青」
「ん?」
聞きたくない。けど、確かめないと・・・
「もしかして、加藤さん、来てた?」
「なんで知ってんの?待ち伏せされて、部屋の前までついてきて、マジ怖かったわ」
やっぱり・・・
「青さ、女と付き合ったことあるんだよな?」
「あー、まあ、短いけどな」
青は、女とセックスしたこともある。男じゃなくても、オレじゃなくても・・・できるって事。
「さっき、そこで加藤さんと出会った」
「マジで?涼太、なんもされなかったか?」
「なんかしてたの、青なんじゃねぇの?」
「どういう意味だよ」
「加藤さん、服乱れてたけど。このアパートから出てきたみてーだし」
「知らねーし。ビッチの事だし、誰かとなんかしてたんじゃねーの?」
「コレ、部屋の前に落ちてた」
拾ったボタンを青に渡す。
「服が乱れてて、部屋の前にそれが落ちてたって事は、そーゆー事なんじゃねえの?」
「は?何言ってんの涼太。話見えねんだけど」
ヤバイ。疑い出してしまったら、青の言葉全部が、白々しく思えてくる。
「もういい」
違う。よくない。
・・・けど、青を疑ってる自分が嫌だ。
「涼太!」
腕を掴まれて、青に引き寄せられる。
「ちょ、やだ。離せ」
青から離れようとするが、がっちり腕の中に閉じ込められて動けない。
「俺の事、信じらんない?」
信じたい。でも一度疑ってしまったら、黒いモヤモヤが心臓から全身を侵食していくみたいだ。
「青、離せって」
「俺が逃がすと思ってんの?」
青に無理やり唇を塞がれる。
嫌だ。今はこういう事したくねぇのに・・・
「やだ。ほんとにやめろって・・・」
「なんなんだよ!いいかげんにしろ!俺が何したんだよ!?」
珍しく青が声を荒らげる。
「もういいよ。俺の事信じらんないんだろ?好きにしろ」
青が寝室に入っていく。
もしかして、オレ、青を傷付けたのか・・・?
オレ達は、付き合って初めての壁にぶち当たろうとしていた。
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