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第137話 棘 1

美織と何も会話の無いまま、空港に着いたオレは車から荷物を下ろす。 「涼くん、帰る時はちゃんと連絡入れるのよ」 「わかってるよ。子供扱いすんな」 ドスッ 「うっ!」 すかさず美織の蹴りが腹に入る。 「人をタクシー代わりにしといて偉そうにしてんじゃないわよ」 「すいません。アリガトウゴザイマス。連絡ちゃんとします」 うう、痛てぇ。人前で蹴るんじゃねーよ!ゴリラばばぁ! 「じゃあ、元気でね。たまにはお母さんに電話くらいしてあげなさいよ」 「ハイ。じゃあオレ行きます」 「・・・私は、青はあんたの事、本気だったと思う」 本気?そんなわけない。 いつも『俺のもの』って言ってたのはそのままの意味だった。 青にとって、オレは『物』でしかなかった。 「もう行くわ。後輩待ってるし。ありがとな、ねーちゃん」 美織と別れ、出国ロビーに入ってすぐにタケルの姿があった。 「涼太さん、おはようございます。・・・なんか、涼太さん雰囲気変わりましたね」 「そんなことないよ。海外とか修学旅行以来だし緊張してるだけ」 タケルは鋭い。 「とりあえず、手続きして中でなんか食べましょう」 出国手続きをして、カフェで軽食をとることにしたが、どうしても飲み物以外喉を通ってくれない。 「青さんと、なんかあったんですね?言いたくないならいいですけど」 「えっと・・・」 どうせ、いつかは分かってしまう事だ。 「今度こそ、終わった。青と」 「・・・そうですか」 タケルは、以前のように驚くことはなかった。 オレたちが別れる事を予想していたかのように思えた。 「まあ、別れてよかったのかもな。もう、物扱いされなくていーし」 「強がってるんですか?それとも、それが涼太さんの本音ですか?」 なんでこう、いつも返事に困る事言うんだよ。 「わかんねぇ・・・」 わからない。本当に。 でも 「飯も食えないほど、ダメージ食らってるって事は確かみたいだ」 「俺の支えは、いらないですか?」 青と別れて、タケルと・・・? 笑えねぇだろ、それ。 「イヤ。だいじょうぶ。ありがとな」 いらない。青以外は。 青に突き放されるような事を言われても、もう考えたくなくても、結局思うのは青の事だ。 オレは、スマホを取り出して通話履歴から青の番号を探す。 ・・・無い。 電話帳の中にも、メッセージの履歴も、青のだけが無い。 おそらく青が消去したのだろう。 青の連絡先を知る術が無いわけじゃない。だけど、オレはそのままスマホをポケットに入れた。 本当に終わったんだ・・・。 二年後 上海 「もう!なんでそんな急なの!涼太は私の事なんて全然好きじゃない!全然会えないし、もういい!さよなら!」 ・・・ああー・・・。また振られた。 なんで、オレ長続きしねぇんだろ。 上海に来て以来、付き合って振られたの5人目なんですけど! 1人目は、初めての彼女というものにビビりすぎて、なかなか手を出せず、シビレを切らした彼女に激怒されて振られた。 2人目には、キスが下手だと言われて振られた。 3人目は、オレの裸を見た彼女にドン引きされて振られた。 4人目は、いざ挿入って時にまたもビビってしまい、萎えてしまうという失態をしてしまい振られた。 5人目は、まだ付き合って一ヵ月も経っていないのに、帰国するのが来週だと言った途端に・・・。しょうがねぇじゃん。本社への移動命令が急に出たんだから。 はあ・・・。上海にいる日本人女性とは、うまくいかねぇのかな。 だからといって、言葉もほとんど通じない相手と付き合う自信ねーし。 結局、童貞のままなのが悲しいぜ・・・。 「涼太さん、また振られたんですか?」 隣の部屋を借りているタケルが、オレの部屋を覗いて呆れた顔をする。壁が薄いせいで、会話がいつも筒抜けてしまうのだ。 「うるせえ。オレだって好きで振られてるわけじゃねぇよ」 タケルがオレの部屋に入ってきて、ベッドに腰掛けるオレに手を伸ばしてくる。 「いつもみたいに、慰めてあげましょうか?」

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