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第136話 escape 4
上海へ発つはずだった当日の朝。
オレは、上海行きも仕事も諦め、青と一緒にいる事を選んだ。
後悔はしない。
どうせ、青を好きになった時点で、世間一般でいう『普通』ではいられなかったんだから。
「涼太、出掛けるから着替えろ」
青に言われて、少ない荷物の中から服を出して着替える。
「どこ行くんだよ?」
「あー。買い物と飯食い行く。先出て下で待ってて」
「わかった」
アパートを出て、階段を降りると見覚えのある車が停まっていた。
「涼くん、おはよう」
車から降りてきたのは、姉の美織だった。
そーだった、空港まで送ってもらう予定だったんだ!
「ねーちゃん、わりー!オレ・・・」
「美織さん、おはようございます。これ、涼太の荷物です」
遅れて出てきた青が、車にオレのバッグとキャリーケースを積み込む。
「え?ちょ、青?なにやってんだよ」
「涼太、行けよ。上海」
「は?なんで?オレは青といるって決めた。だから行かねぇ」
なんで急に?今更、行くなんて言えないし思えない。
「行け」
青が助手席のドアを開けて、オレを車に押し込もうとする。
「やめろよ!行かねぇっつってんだろ!」
青の手を払い除けたが、すぐに手首を掴まれて車に押し付けられてしまう。
「よく聞け涼太。俺はもうお前が必要じゃない。もういらない」
「・・・は?」
必要じゃない?いらない?
「言いなりになってるだけのペットはいらねぇっつったの。飽きたから、もういらない」
「ペ・・・ット?」
青の瞳が酷く冷たい。
それを見たオレは、一気に怒りが込み上げて胸焼けがするくらい気分が悪くなる。
「・・・そーかよ。結局、本気じゃなかったって事か」
オレの言葉に、青の返事はない。
「わかった。もう終わりだな」
終わり・・・。自分で言った言葉が自分の胸に深く突き刺さる。
青をこれ以上見るのがつらくて、助手席に乗ってドアを閉めた。
しばらくして美織が運転席に乗り、何も言わず車が走り出す。
「涼くん、いいの?本当に」
「・・・」
いいも何も、オレは青にとってペットだったって事だろ・・・。オレの意思なんか、きっとどうだってよかったんだ。
考えてみれば、初めからそうだった。
いつだって強引で、勝手で、乱暴だった。
そんな青を好きになったのはオレだ。
「・・・バカか、オレは」
オレって、本当に流されやすくて騙されやすくて、情けねぇな・・・。
でも、好きだった。男同士だとかそんな事、どうでもいいくらいに。
「涼くん、わかってると思うけど、青は・・・」
「もう青の話はいいから」
今は、青の事をもう考えたくなかった。
考えると涙が出そうだった。
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