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第149話 目と鼻の先 3

いつもは静かな企画部のオフィスに女性社員達が集っている。 「目線こっちくださーい。二人揃って。・・・小林さん、もっと笑顔で」 うう・・・。こんな大人数に見られながら写真撮られるなんて・・・。緊張以外なんもねぇ。部長、恨んでやるからな~・・・。 ガチガチのオレとは対照的に、雄大さんは余裕のスマイルを振りまいている。 「オフィスでの撮影は以上です。次は会議室での撮影になります。御社の今シーズンの服をピックアップさせて頂きましたので、着替えて頂きますね」 女性誌のスタッフに誘導されて会議室へ入る。 「佐々木さんは、こちらにお着替えください。小林さんはこちらに」 案内されたパーテーションで仕切られた会議室の奥へ入って、シングルハンガーに掛けられた服を手にすると・・・ ・・・あれ、何これ。間違ってんじゃん。 「すいません、コレ、ウィメンズの商品なんですけど・・・」 オレは、仕切りの外にいたヘアメイクの女性におずおずと声を掛けてみる。 「そうですよ~。以前からジェンダーレスがテーマで売り出してらっしゃるじゃないですか。うちの本、オトコの娘読者も多いんですよ~」 ・・・へ? 「小林さんなら、絶対可愛く着こなせます!メイクも気合い入っちゃうな~!楽しみ!」 嘘だろ。え、オレ女装すんの?マジかよ!聞いてねぇし! クソ部長!嵌めやがったな・・・! 「あの、オレやっぱ、ムリ・・・」 「絶対可愛く仕上げますね!」 「・・・あ、ハイ」 ウキウキのヘアメイクさん。 オレがやらないって言ったら・・・、困るよな・・・、はあ。 仕方なく、用意された服に着替える。 白の薄手のカットソープルオーバーにチェックの膝丈スカート、マスタードカラーのヒールパンプス。 にしても、ストッキングの履き心地が悪すぎる・・・。 「・・・キモ」 鏡に映る自分の姿に吐き気がしてくる。 童貞殺しニットもキツかったけど、モロ女子服は、精神的ダメージでかすぎるわ・・・。 「じゃ、メイクしますね。座ってください」 言われるままされるがままで10分後・・・ 「小林さん、元がいいからあっという間に終わっちゃいました!めっちゃ可愛いですよ!」 恐る恐る鏡と向き合う。 ライトブラウンの緩いウェーブがかったウィッグ・・・。 上に向いた睫毛とテッカテカの唇がキモイ! ・・・なんだろう。髪型は違うけど、姉ちゃんを見てる気分だな。 「小林さんオッケーです」 パーテーションから出たくねぇよ~・・・ でも出なきゃな・・・仕事だと割り切って! 意を決して、一歩を踏み出す。 「涼太・・・お前・・・」 雄大さんが女装姿のオレを見て言葉を無くしている。 「わかってます。キツイですよね。オレが一番そう思ってるんで」 「いや。そうじゃなくて・・・なんてゆーか・・・似合ってるよ」 「気つかわなくていいですよ。さっさとやりましょう」 ちゃっちゃと終わらせて、早くこの姿から解放されたい! 一人での撮影と、雄大さんとのカップルショットを撮り終えて、ようやく女性誌のスタッフ達が帰って行く。 はあ。やっと終わった~!速攻で着替えてやる! 「あれ?オレの服・・・」 会議室の奥へ入って、ハンガーに掛けたハズの自分の服を探すが、無い。 「え?なんでねーんだよ!どこ行ったオレの服!」 「涼太、なに騒いでんの?」 先に着替え終えていた雄大さんが、パーテーションの向こうから声を掛けてきた。 「オレの服無いんすよ!雄大さん知らないですか?」 「なんで俺が知ってるんだよ。入るぞ」 そう言って雄大さんがパーテーションの中へ入ってくる。 「あ!そうだ!さっき雄大さんが着てたやつ、オレ買取して・・・」 「広報のやつがもう持ってったけど?」 「ええ!?」 ガーン・・・どうしよう・・・

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