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第162話 当て馬の本気 2

それからすぐに中川さんが企画部のメンバーに声をかけてまわり、もう一度オレの元へやってきた。 「みんな、今日なら空いてるんだって。涼太くんはどう?急すぎるかな?」 今日は青も同期の飲み会だって言ってたしな。 「大丈夫です」 「よかった~。今人気のお店にちょうど行きたかったから、そこで決めちゃうね!平日だし、予約とれると思うから」 弾むような足取りで中川さんは自分のデスクに戻って、早速予約の電話をしているようだった。 ・・・仕事しろよ・・・。 本社勤務になってからは、基本的には8時から17時の9時間拘束定時上がり。 17時になるやいなや、中川さんは立ち上がり、テンション高めの声で店の場所と予約時間をみんなに知らせる。 「18時からなのでまだ時間ありますけど、部長以外にタクシーいる人います?」 1時間あるし、そんな遠くないから一旦ウチによってバッグ置いてから電車で行こう。 「涼太、タクシーいらねーの?」 雄大さんが、背後から俺の肩に両手を置いて聞いてくる。 「はい。電車で行きます」 「そーなんだ。じゃあ俺もそうするわ」 なんでだよ! 「つーか、雄大さん、ちょっとベタベタしすぎじゃないですか?なんか変な噂もたってるみたいだし・・・」 「噂?ああ、俺達が付き合ってんじゃないかってやつ?」 「わかってんなら、距離詰めんのやめてもらえますか」 困る。せっかく本社で働けるようになったのに、仕事以外の事で目立ちたくなんかないんだよ、オレは。 「あながち間違いでもないじゃん。デートしてキス・・・いででで!」 肩に乗せられた雄大さんの手を捻る。 ほんと懲りねえな、この人。 「とりあえずオレ、家寄って荷物置いてきたいんで」 「じゃあ一緒に行くよ」 ・・・・・・はぁ。 断るのもめんどくさくなったオレは、雄大さんと一緒に会社を出てマンションへ向かう。 ・・・にしても、なんで部屋までついてくるかな。 「涼太、いいとこ住んでんだな~。8階とか、高層じゃん。たっけぇな・・・こわ・・・」 リビングの窓を開け、ベランダから恐る恐る外を眺める雄大さん。 そんな高層じゃねーだろ・・・。怖いなら見なきゃいいのに・・・。 「同居人の兄貴が不動産会社に務めてて・・・なんか、前の住人が部屋で孤独死してたとかで。だから家賃は結構安いですよ」 「マジか・・・おまえら、よくこんなとこ住めるな。怖くなっちゃった」 別に、幽霊が見えるわけじゃないし。 「怖い、怖いよ~。涼太、くっついてていい?」 ぎゅうっと雄大さんがしがみついてくる。 ・・・いいかげんもう、突っ込むのもめんどくさい。 「行きましょう」 雄大さんをくっつけたまま部屋を出た。 店に着くと、雄大さんとオレ以外のメンバーは既に席についていた。企画部は、俺を含めて全部で6人。部長と、雄大さんと、中川さん、夫婦で同部署の前田夫妻、そしてオレ。 空いていた席に雄大さんと並んで座る。 「すいません。家寄ってたんで遅くなりました」 「大丈夫だよ、まだちょっと早いし。コースで頼んであるけど、食べたいのあったら頼んでいいからね」 中川さんに手渡されたメニューを見ると、海鮮もの中心の品揃え。 「なんか、中川さんかわいらしいイメージなのに、意外なチョイスですね」 「そお?だって、彼氏とじゃカワイコぶんないといけないじゃない?たまにはこういう居酒屋で気取らずに日本酒とか飲みたくなるの。そういう時あるでしょ?」 「まあ、そうですね」 オレはハンバーグなら毎日でも飽きねーけど。 メンバーの中で一番若手のオレは、先輩達に酒を勧められてすぐに酔いが回ってくる。 「涼太くん、もう佐々木さんと付き合っちゃいなよ~!ファッション業界じゃ、同性愛なんてめずらしくないわよ」 「中川さんもこう言ってるし、俺と付き合え涼太。大事にしてやるぞ」 雄大さんに、肩を抱かれて引き寄せられる。 「雄大さんと付き合う?大事にって、どう大事にしてくれるんすか」 酔っていて、否定するのもめんどくさい。取り敢えず、先輩達の話に合わせる。 「・・・涼太、それワザとか?」 ん?わざと?なにが? 「雄大さん達の話にのってるだけです。本気なわけないじゃないですか。知ってるくせに」 「そうじゃないよ。こんなに近いのは、ワザとかって言ってんの」 ちゅ、と雄大さんの唇が触れる。 え・・・? 「もー!佐々木さん、手早すぎですよ!涼太くん、固まっちゃったじゃないですか!」 な、な、な、何考えて・・・ 「涼太もここで飲み会?」 後ろから聞き覚えしかない声がする。 恐る恐る振り返ると・・・ 「ああああああ・・・青・・・」 昨日の今日で、なんてタイミングだよ・・・

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