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第163話 当て馬の本気 3
もしかして、今の・・・見られてた・・・?
「同じ店で、しかもテーブル隣とかすげー偶然だな」
隣のテーブルの端、通路を挟んでオレの横に座る青。
「う、うん」
見られて、ない?
青は怒ってる様子も無く、いつも通りの口調で話す。
青のテーブルには、同い年くらいの男女が5人。青の横には髪をひとつに纏めた大人しそうな女性が座っている。
「涼太、ヤキモチ?」
オレの肩に腕をのせたままの雄大さんが耳元で囁く。
「は?違いますよ!ってか、離してください」
雄大さんの腕を振り払う。
「涼太くんのお友達?」
「あ、ハイ。一緒に住んでて」
「ルームシェアしてるんだ?仲良しなんだね~」
「中学からの付き合いなんで・・・」
中川さんに青との関係を聞かれるが、本当の事なんて言えるはずもない。
横に青がいるのに、お互い話すわけでも無く、なんだか気まずいような変な感じ・・・。
チラッと横目で青を見る。
え!?
隣の女の子がいつの間にか泣いていて、慰めるように青が頭を撫でて、肩に手を置く。
・・・なんだよ、アレ。
急に胃のあたりがモヤモヤしてきて、気分が悪くなる。
見たくない。
そう思ったオレは、席を立ちトイレに向かった。
『今日会社の飲み会になった』
仕事が終わり、同期の奴らと居酒屋へ向かう途中、スマホを見ると涼太からのメッセージが入っていた。
『佐々木もいるんだろ。気をつけろよな』
・・・既読はつかなかった。
居酒屋へ入ると、店の奥に見覚えのある後ろ姿があった。
涼太じゃん!同じとこで飲み会とか、運命感じる・・・
隣の男に肩を引き寄せられる涼太。よく見ると、隣はあの佐々木だ。ふたりが見つめ合ったと思ったら、佐々木が涼太にキスをした。
その瞬間に、俺は怒りが沸点に達する。
だけど、どこか冷静な自分もいて、嫉妬で狂いそうになるのを必死で抑えていた。
少しは大人になったということなのかもしれない。
もしくは、昨日、今日と続けて涼太を目の前でいいようにされて、落胆しているだけかもしれない。
案内されたテーブルは偶然にも涼太たちの隣。
俺はなんでもないフリで話しかける。
明らかに動揺する涼太。隣の佐々木は、俺だとわかっていてニコッと笑い、それでも涼太の肩から手を外そうとはしない。
イライラが積もって、今すぐにでも涼太を佐々木から引き剥がしたくなる。
佐々木の余裕の笑顔に、そんな子供じみた心の内を見透かされたようで、ぐっと怒りを抑えた。
挑発になんか、のってたまるかよ。
隣に涼太がいるのに、なんだか遠く感じる。今は、俺のものじゃないみたいだ。手を伸ばせば触れる距離なのに触れない。涼太と俺の間に透明な壁があるような・・・。
「うっ、ひっく、う、う・・・私、もう無理。やっぱり医者なんて・・・」
隣に座った同期の西野が泣き出す。こいつは泣き虫でいつも泣いている。正直鬱陶しい。
不意に涼太の視線を感じて、俺の中に嗜虐心が芽生える。
泣いている西野の髪を撫で、肩に手を置いた。
涼太がそれを見て傷付けばいい、そう思った。
慌てた様子で席を立つ涼太。
少しの間を置いて佐々木が立ち上がる。
俺は、席を離れた佐々木を引き止めた。
「佐々木さん。俺が行きます」
「涼太をあんな顔にした本人が追いかけていける立場なのかな?」
佐々木が嫌味な笑顔を浮かべる。
「涼太をあんな顔にできる立場なのは俺だけなんで」
「あ、そう。じゃあ今回は譲ろうかな?」
いちいちムカつくな、こいつ。
トイレに入ると、涼太は手洗い場で顔を洗っていた。
ペーパーを数枚取って涼太に渡す。
「・・・さんきゅ」
「どうした?酔った?」
顔を拭く涼太を後ろから囲んで、白々しく尋ねる。
「・・・ちょっと酔ったかも」
涼太の嘘はわかりやすい。
「妬いてんだろ?俺の気持ち、少しはわかった?」
「妬いてない!」
意地を張る涼太の頭を撫でると、俺の手を振り払って離れようとする。
涼太の腕を掴んで、体を壁に押し付けた。
「嫉妬、してんだろ?俺が他のヤツに触ったから」
「してねぇって!離せ馬鹿力!」
「涼太が誰かとなんかある度に、俺は気が狂いそうになってんだよ」
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