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第166話 子供じゃない 2

家に帰ったのは21時過ぎだった。 すぐに飛びかかりたかったのに、帰っているはずの涼太はまだ帰宅していなかった。 「なんだよ・・・」 涼太に電話をかけるが出ない。 ・・・もしかして、今日こそ佐々木と・・・ 嫌な想像が頭を過ぎって、不安になった。 ガチャ ドアが開く音がして、俺は急いで玄関へ向かう。 「涼太!何やってたんだよ!こんな遅くまで!」 俺の剣幕に、呆気に取られたように涼太は目を丸くする。 「遅くって・・・まだ21時だろ」 「仕事は17時までだろ。4時間もどこで何してたんだよ」 「はあ?お前オレのかーちゃんかよ。子供じゃねーんだから、少しくらいほっとけよ」 少しくらい帰りが遅くなったからって、こんなに腹を立てるのは、我ながら心が狭いと思う。 「恋人の帰りが遅いのを心配しちゃ悪いのかよ」 だけど、相手が涼太だと、自分で感情の制御がどうしてもできない。 「恋人だって思ってるやつに、他の男んとこ行けってよく言えたな」 う・・・。それは・・・、売り言葉に買い言葉ってやつで・・・。 「本心じゃない。涼太が俺以外の所に行くなんて思ってない」 「どーだか。オレ、青に信用されてねぇみたいだからな」 涼太がじーっと睨むような目で俺を見る。 ・・・気まずい。涼太を抱きしめたかったのに・・・そんなムードじゃないな・・・。 「ごめん。信用してないわけじゃない。ただ、俺が勝手に佐々木に嫉妬してただけだ。だけど、同期のヤツらから昨日の事聞いて・・・」 涼太の責めるような視線が痛い。 「悪いと思ってんだ。オレを疑ったこと」 「悪いと、思ってる」 俺を睨みながら、鼻の先まで顔を寄せてくる。 俺は堪らなくなって、涼太にキスしようと近付いた。 「ストップ」 唇が掠りそうなところで涼太の制止が入る。 「悪いと思ってんなら、一ヶ月、お触り禁止。無理なら、一ヶ月間、実家に帰らせていただきます」 ・・・は?なんだよソレ・・・。 「き、キスも無し?」 うーん、と考え込む涼太。 「キスはいいかな」 エッチは無しって事か?じゃあ・・・ 「・・・ハグは?」 涼太はもう一度、うーん、と考える。 「ハグも大丈夫かな」 キスハグが良くて、エッチは無し?俺の事、嫌いになったわけじゃなさそうだけど・・・ 「約束、できる?」 「できる!」 至近距離での涼太の甘えた様な顔に翻弄されて、勢いだけで答えてしまう。 「よし、いい子いい子。約束破ったら、死ぬほど蹴り倒した後に出てってやるから覚悟しとけよ」 頭をガシガシ撫でられて、ちゅ、と涼太からキスされただけで、嬉しくて頬が熱くなる。 「・・・ハイ。ガンバリマス・・・」 ・・・とは言ったものの、あれから二週間。ほんっとうにキスとハグしかさせてもらえない・・・。 なんでだよ~!キスしてる時、涼太も気持ち良さそうにしてんのに。ハグしてる時だって、物欲しそうな顔するくせに。 服を脱がせようとすると、いきなり怒り出すんだよな・・・。 まさかと思うけど、佐々木にキスマークとか付けられてんじゃ・・・。 イヤイヤ、そもそも俺が涼太を信用しなかったからセックス禁止になってんのに、さすがにそんなことはしないだろ! ・・・・・・・・・・・・とは思うけど、気になる。 既に就寝している涼太の部屋へ、音を立てないようにこっそり入って、体に巻き付いている毛布をそーっと捲る。 「んんっ・・・・・・」 少しだけ身動ぎして、また体を丸めて寝息を立てる涼太。 慎重に涼太のTシャツを捲って、白い肌に何か証拠が残っていないか確かめる。 背中には、何も無いな。 横を向いて体を丸めているため、涼太の前身が見えない。 こうなったら、強行突破するしかないか・・・。 仰向けになるように、涼太の肩をグッと引きTシャツを捲り上げる。 前にもなんの跡も無い。二週間前に俺が噛み付いた傷がうっすらと涼太の首にあるだけ。 「う・・・さむ・・・」 やっべ! 急いで涼太のTシャツを下げ、毛布で体を包み、部屋を出る。 本当に、俺はお仕置きされてるだけなのか? 疑問を残したまま、一ヶ月が過ぎるのを待つしか無かった。

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