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第172話 ひとつ屋根の下で 1

「佐々木さん、これ。・・・で、ハイ、涼太くんの分」 中川さんが企画部のひとりひとりにファッション雑誌を配る。 「ありがとうございます」 向かいのデスクの雄大さんが、雑誌を手に取り何気なくパラパラと捲って、急に手を止め、あるページを食い入る様に見ている。 「涼太・・・中身見てみろ。めっちゃいい女出てるぞ。今すぐ見ろ67ページな」 え~・・・今、新商品のレイアウト案出してるとこで忙しいのに~・・・ しぶしぶデスクの端に置かれた雑誌を手に取り、ページを捲っていく。 「67ページ・・・」 ・・・こ、これは! 「な?めっちゃいい女だろ?」 顔から血の気が引くオレをからかうように、雄大さんはニヤニヤしている。 「どこが女なんですか・・・。この前のオレの女装じゃないですか!忙しい時に変なモン見せないで下さいよ!」 雄大さんと一緒に撮影した『イケメンスタッフ紹介企画』と言いつつも女装させられたやつじゃん! 「涼太くん、かわいい~!モデルみたい、羨ましいなぁ~」 中川さんまで・・・。しかも、スッピンより女装の方がデカく載ってるってどうなんだ・・・。 雄大さんに後ろからハグされてるやつだし。 何枚も写真撮られたけど、雄大さんがふざけてやったバックハグが採用されるとは・・・最悪じゃん。 「ちゃんと彼氏にも見せるんだよ!絶対カワイイって言ってくれるよ~!」 「そーそー、絶対見せろよ。俺とのラブラブショットなんだからな。ああ~、でも嫉妬されちゃうかな~?」 はははと笑って、女装姿のオレについて語り出す雄大さんと中川さん。 実物見られてるから女装はいいとしても・・・このハグは見られちゃいけない気がする! くっそ~、青に見つかる前に捨ててやる! つか二人とも仕事しろよ~! マンションに帰って、例の雑誌をバッグから出し、とりあえずクローゼットの中に隠す。 会社で捨てる訳にもいかないし、ゴミ捨て担当は青だから、ゴミ箱に捨てる訳にもいかないし。 今度の資源ごみの日にこっそり捨てよう・・・。 「ただいま」 突然背後から青の声がして、心臓が飛び出そうになった。 「おおおおかえり、はは早いじゃん」 「そ?・・・で、クローゼットに何入れた?」 「え!は!?え!?別に何も?全然隠してねぇし!」 「誰も何隠したかなんて聞いてねーんだけど?」 やっべ墓穴・・・ 「自分から白状する?それとも拷問されたい?」 青が笑顔で詰め寄ってくる。 拷問なんて死んでも嫌だ! 「わ、わかった!隠してごめん!・・・・・・コレです!」 クローゼットの奥に突っ込んだ雑誌を、慌てて引っ張り出し青に渡す。 「なに?こんなもん隠す意味あんの?」 青はオレの部屋を出てリビングのソファに座ると、雑誌を捲り始めた。 ・・・どうか、あのページに気付きませんように・・・スルーしてくれ頼む・・・ 遠巻きに見ていると、青のページを捲る手がピタッと止まる。 ・・・やっべぇ~。気付いたな、アレは。 「さすがプロが撮ってるだけあって、めっちゃ写りいいじゃん」 え?怒ってない?雄大さんと密着してんのに? 「だ、だよな・・・もういいだろ!そんなもん早く捨てて・・・」 「何なに?・・・ほー、女性スタッフのコメント・・・『普段からとっても仲がいいふたりですが、小林さんのおんなの娘化で、正真正銘ラブラブカップルです』・・・だってさ」 なんだって!? 青から雑誌を奪い取り、ページを細部まで読んでみる。 「マジかよ・・・誰だよ、こんなん答えてるやつ・・・・・・は!まさか中川さん・・・?」 青は雑誌をひょいっとオレから取り上げ、テーブルの上に置く。 「普段から仲がいいんだ。へぇ~」 ソファに座らされて、横から伸びてきた青の手に、前髪を ちょん、と摘まれた。 うう・・・。あんな事書かれてるなんて・・・。 青の静かな怒りがビリビリ伝わってきて、横を向くのが恐ろしい・・・。 「同僚の前でキスするくらい仲良いんだもんな?佐々木と」 摘まれた前髪をツンッと引っ張られて、青の方に向かされる。 引き攣った青の笑顔に身の危険を察知するが、後ろめたいだけに青の手を振り払う事が出来ない。 飲み会のときにキスされてたやつ、やっぱ見られてたのか・・・なんてこった~・・・

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