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第180話 本命くんと愛人さん 3

仕事が終わり、急いで退勤登録をして会社を出る。 今日は青が帰ってきたら、出張の事言わなきゃなんねーし、夕飯、あいつの好きな和食にしとかねーと! えーと、冷蔵庫に何あったけ?豚肉とあとは・・・ 「りょーおたっ」 背後から聞こえるこの声は・・・ 少し遅れてビルから出てきた雄大さんが軽い足取りで追い付いて来る。 「同じとこ帰るんだから置いてくなよ。まじツンばっかいらないんだけど。デレもくれよ」 「雄大さんと一緒にいると ろくな事なんないんで、極力避けようかと・・・」 「おまっ、今のかなり傷付いたぞ、俺。出張だってせっかく2人だと思ってたのに、店舗組と一緒だなんてな~」 並んで歩きながら雄大さんはガックリと肩を落とした。 「まあ、什器設置もあるから2人じゃキツいし、しょうがないけどな」 ほんっと雄大さんと2人じゃなくてよかった。 マンションのエレベーターに乗って、8階のボタンを押す。 「そういえば雄大さん、高いトコ苦手なんですよね?よくあの部屋に住むことにしましたね」 前にうちに来た時にビビってなかったっけ? 「これも愛の力ってやつなんだなーって実感しながら、窓には近付かないようにしてるよ」 「はあ・・・そっすか・・・」 聞かなきゃよかった。 「じゃあ、お疲れ様でした」 「青くんに」 部屋に入ろうとドアノブに手をかけたオレは、雄大さんの口から出た青の名前に振り返る。 「青になんですか?」 「報告するんだろ?一緒に出張行くこと」 「はい」 言わなきゃぶっ殺されちゃうんで。 「・・・そ。楽しみにしてる。じゃあお疲れ」 ひらひらと手を振って隣の部屋に入っていく雄大さん。 何を楽しみにしてるんだ?雄大さんて、とことん何考えてるかわかんねぇ。 「涼太、なんかあった?」 テーブルに並んだ料理を見た青が、オレの顔を横から覗き込んでくる。 「え?なんで?」 「豚大根とうどん入りの茶碗蒸し・・・俺が好きなメニューの時は、お前の機嫌が良いか、俺の機嫌取りたいかだろ」 ・・・読まれている。 「とりあえず食おーぜ!」 オレを訝しげに見ながら、テーブルを挟んで座った青が食べ始める。 「うまいよ、大根めっちゃ味染みてるし。・・・で、どうした?佐々木になんかされた?」 「圧力鍋のポテンシャル舐めんなよ。・・・いや、されてない。えと、明後日から3泊4日で出張行ってくる」 箸を持つ青の手がピタッと止まって、良からぬ想像をしているのが伝わってくる。 「青が予想してる通り雄大さんと一緒。けど!店舗から来るスタッフが2人いるから、4人で行くし心配すんな」 「・・・そっか。まあ、ふたりきりじゃねぇなら」 ホッ。よかった。青を怒らせたくも悲しませたくもないし・・・ 「つって、俺がそれだけ言って終わるわけねーの、わかってるよな?」 「え?まだなんかあんの・・・?」 説教・・・とか? 「今日は俺が先風呂入るから。お前は後でちゃーんと、中キレイにしてから上がってこいよ?」 「なか?湯船?言われなくてもちゃんと洗って来・・・」 「ケツん中だよ。明日もな」 「ケツ・・・え、って明日も!?平日に2日連チャンはちょっと・・・」 「嫌なら縛って犯しても・・・」 「わかったよ!」 くっそぉ~! 青がそれで納得するなら、やるけど・・・ 隣に聞こえないように気を付けねーと! それだけが心配だな・・・。 なんて思ってみても、いざ始まると雄大さんの事なんかどうでもよくなって、青の事しか考えられなくなってしまう。 幸い、2日間とも青のベッドで抱かれたため、オレの声は雄大さんに聞こえてないはず。・・・たぶんだけど。

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