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第183話 それぞれの夜 3

翌朝、目が覚めると背中に温かな存在感があって、振り返ると 「げ!タケル!」 一人で寝ていたはずのベッドに、なぜかタケルが・・・! 慌てて毛布から飛び出し、ベッドから降りる。 タケルと一緒に行ったいつだったかの出張の日の朝を思い出して、嫌な汗が出た。 「タケル!てめー、のぞむという彼氏がいながら何やってんだよ!」 「・・・ん?・・・涼太さん、おはようございます」 「おはよじゃねーよ!なんでオレのベッドで寝てんだよ!?」 「涼太さんが俺の話聞かないで寝ちゃったから、ずっと耳元で説教してたんですよ。起きる気配はなかったですけど!・・・そしたらいつの間にか俺も寝てしまいました」 起き上がり、頭を掻きながらタケルが答える。 「・・・わり。疲れてて、つい寝ちゃった・・・」 何もなくてよかった~。 まあ、あんだけ嬉しそうにのぞむの話してたんだから、今更オレをどうこうってのは無いだろうけど。 「準備して朝メシ食いに行きましょう」 「お、おう」 「安心してください。涼太さんの事は今でも好きですけど、のぞむさんの事は愛してるんで」 「・・・あ、そう」 結局ノロケかよ。 にしてもタケル、サラッと恥ずかしいこと言うんだな。すげーな・・・。 オレも青に言ったら喜んでくれんのかな・・・? 今日も一日中、レイアウト通りにカラの什器を設置して、近くの居酒屋へ寄って、ヘトヘトになりながらホテルに戻る。 「壁面しかやってくんねーもんな、業者。せめて高層什器もやってくれりゃ楽なのにな」 本日同室の瀬戸が、部屋に入ってすぐに愚痴り出す。 「業者がやってくれたら、オレたち出張になってねーだろ。そーゆーとこケチんのがうちの会社だろ」 「まあな。涼太、先シャワー行けよ」 「え、いいの?やったー・・・」 着替えの用意をしているオレを見て、なぜか瀬戸がソワソワし出す。 「オイ瀬戸、変な事思い出すんじゃねーぞ」 「あぁ!?思い出すわけねぇだろ!お前のスケベな姿なんか、覚えてるわけねぇだろ!」 ・・・こいつ、絶対覚えてるわ。最悪。 シャワーを浴びてすぐに、タオルを頭に掛けたままベッドにうつ伏せに倒れ込むと、隣のベッドに座っていた瀬戸が立ち上がる。 「おい、そのまま寝たら風邪ひくぞ。髪乾かせよ」 「んー。わかってるよ」 わかってるけど、下ろした瞼がなかなか上げられない。 「・・・しょうがねーな」 頭に掛かっているタオルの上から、瀬戸がオレの髪を拭いてきて、一瞬、おえ~!と思ったが、意外なほど優しい瀬戸の手つきに、されるがままになってしまう。 「やべ・・・。めっちゃきもちい。・・・寝そ・・・」 髪を拭いていた手が急に止まって、どうしたのかと片目を開けて、視線だけで見上げると、顔を真っ赤にした瀬戸と目が合った。 「っ!りょ、涼太のクセにデレた声出してんじゃねーぞ!自分で拭いてさっさと寝ろ!」 瀬戸は怒鳴った後に、ドスドスと足音を立てながらバスルームに入っていく。 え~・・・。勝手に拭いてきて何怒ってんのアイツ。意味わかんねぇ~。 ゴー・・・ゴー・・・ゴー・・・ ・・・なんだ?・・・なんか、うるせぇ・・・。 深夜、部屋に鳴り響く轟音に、オレは目を覚ました。 轟音の正体は、瀬戸のいびきだった。 「うるせぇ・・・」 あまりの五月蝿さに頭から毛布を被る。 あれ、そういえばオレ、あのまま寝ちゃったのに、毛布・・・瀬戸が掛けてくれたのか。髪拭いてくれたり、何気に面倒見いいよな。いいとこあんじゃん。 「ゴー・・・ゴー・・・」 ・・・・・・・・・・・・にしても、マジでうるせぇ。 一度聞こえてしまうと、気になって目が冴えてきてしまう。 「ゴー・・・ゴー・・・ゴー・・・」 「・・・・・・あー!もぉー!」 規則正しい騒音にイライラしたオレは、起き上がり、瀬戸の鼻を思いっきり摘んだ。 瀬戸が苦しそうに眉を寄せる。 どうだ!これでちょっとは静かになる・・・ 「おわっ!」 突然、鼻を摘んでいた手を引っ張られ、瀬戸の胸元に倒れ込んでしまった。 間を置かずに瀬戸の腕が背中にまわってきて、上半身をぎゅうっと締め付けられる。 「!てっめ、寝ぼけてんじゃねぇ!」 「うっっ!」 オレは瀬戸の腹を力いっぱい殴り、巻き付いていた腕の力が緩んだところを抜け出して自分のベッドに戻って毛布に包まった。 うえ~、瀬戸と密着してしまった~!きっしょ!マジで最悪! こうして二日目の夜は過ぎていった。 朝になり、瀬戸は「なんだか腹が痛い」と言っていたが、オレは知らないフリを通した。 少なからず、オレも瀬戸のいびきの被害者だったんだから、お互い様だろ。

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