185 / 210
第186話 憂慮 2
どうしてもベッドで寝ると言ってきかない宮野を、渋々俺のベッドで寝かせることにして、俺は涼太のベッドで横になる。
一緒に寝ることがあるかも・・・と考えて、自分の部屋はダブルベッドにしたため、涼太のシングルサイズのベッドが窮屈に感じる。
あいつ、普段の態度はでかいくせに、寝てる時は毛布に包まって小さくなって、かなり省エネだよな・・・。クソ可愛すぎる。
厚めの毛布を丸めて力いっぱい抱きしめると、涼太の匂いがして、本人が居ないことが寂しくて切なくなってくる。
「こんな匂いだけじゃ全然足りねぇよ・・・」
前に、別れると言ってしばらく離れて、帰った時に涼太が俺のベッドに寝ていた事があった。
あの時、涼太は同じように想ってくれていたのだろうか。
いま、同じように、俺がいない事を「足りない」と感じていて欲しい。
「涼太ぁ」
ガチャ
「あのさあ、うるっさいんだけど、ブツブツブツブツ」
俺の部屋にいた宮野が不機嫌そうに涼太の部屋に入ってくる。
やべ。声に出てたのか、色々と・・・。
「まだ3日しか涼ちゃんと離れてないのに、もう欲求不満?」
「うるせえな。俺はどんだけ涼太と一緒にいても欲求不満なんだよ。タケルはそうでもないんだろうけどな」
呆れ顔の宮野にイラッとして、嫌味のひとつも言いたくなる。
「タケルくんが俺のカラダに飽きてるとでも言いたいわけ?」
「さあ?別にそんなつもりなかったけど?思い当たる節でもあったならわりーな」
「・・・今の、かなり頭きた・・・俺が飽きられるようなカラダしてんのか、試してみる?」
「はあ!?」
宮野がベッドに上がり、仰向けになっている俺の上に跨ってくる。
「欲求不満なんでしょ?相手してやるよ」
「いらねーよ!どけ!」
宮野を退けようと振った腕を掴まれて、ベッドに押し付けられてしまった。
意外にも強い宮野の腕力。俺と同じくらいの体格だから、当然といえば当然か。
「なーに?もしかして、セックス下手なの俺にバレるのが怖いとか?山田って真面目そうだから、ただ腰振るだけのサルみたいなセックスしてんじゃないの?
涼ちゃん、満足してんのかなぁ?」
下手、だと・・・?
佐々木といい宮野といい・・・。マジでムカつく。
「・・・・・・は。ふざけんな。ヤッてやりゃいいんだろ、ヤリチンから転職したクソビッチが。悦すぎて泣いても知らねえからな」
頭に血が上った俺は、宮野を引き倒し、掴んだ両手をベッドに抑え込む。
「俺はタケルくん専用のビッチだよ。お前こそ、涼ちゃんよりもイイって俺に縋るようになんなきゃいいけどな」
こいつ、マジで調子に乗んなよ。
宮野と睨み合いながら、顔を近付ける。
唇が触れ合いそうな距離まで詰め寄って・・・
「「・・・・・・おえぇぇぇ・・・」」
同時にお互い顔を背けるように横を向いた。
やっぱ無理!煽られようが何しようが絶対無理!
宮野がベッドから下りて、俺は涼太の枕に顔を埋める。ああ~、俺が欲情するのはやっぱこの匂いだよな。
涼太以外の男なんて、気色悪いだけだ。
恐らく宮野も俺と同じようなことを思っているだろう。想う相手が違うだけで。
「マジ気持ち悪・・・。山田、サイアク。もう少しで事故るとこだった」
床に座って口に手を当てながら眉を顰める宮野。
「こっちのセリフだ。掠りでもしてたら死んでたぞ、あっぶねぇ。お前みてーなのとヤレるなんて、タケルの目も皮膚も腐ってんじゃねぇか」
目が合って、もう一度お互いに睨み合う。
「「おえ・・・」」
ふたり同時に嘔吐く。
「はあ、つまんない事やってないで寝よ。俺、結構デリケートなんだから、物音立てんなよ。独り言も禁止ね」
「泊めてもらってるくせに図々しいんだよ、てめーは」
宮野は涼太の寝室を出て、隣の俺の寝室に入っていった。
横になり、涼太の匂いのする毛布と枕に顔を押し当て、思いっきり息を吸う。
甘過ぎず、だけど脳が麻痺してしまいそうな官能的な涼太の匂い。
俺以外にもこの匂いを振り撒いてるなんて許せねぇ・・・。
やっぱり匂いだけじゃ満足できない。顔を見て、触って舐めて味わって、深くまで混ざり合いたい。今よりも・・・もっと深くまで。
誰も触れない涼太の奥の奥まで触りたい。
この欲にはきっと、終わりなんて無いんだ。
・・・・・・にしても何やってたんだ、俺も宮野も。さっきの一部始終を思い出すとゾッとする。
・・・・・・・・・・・・本気でキモかった。
ともだちにシェアしよう!