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第185話 憂慮 1

涼太が出張に行ってから3日。 はっきり言って仕事どころじゃない。ミスはしていないけど、指導医から「具合でも悪いのか?」と心配されてしまうほどソワソワして、涼太の事が気になって仕方なかった。 たかが4日間の出張で、電話するのもなんだか女々しい気がして、声を聞きたいのも我慢してんのに・・・。 涼太からの連絡も一切無しってどうなんだよ。 「山田、お疲れ」 「あ・・・宮野」 仕事を終えて、駐車場に停めてある車に乗り込もうとしていたところを、久しぶりに顔を見る宮野に呼び止められた。 「久しぶり。山田、いま救急なんでしょ?研修」 「ああ。お前どこ?」 「俺?産婦人科」 「・・・お前がいる産婦人科ってなんか嫌だな」 「ひっでぇな!ちゃんと仕事として割り切ってるし!それに俺、タケルくんと付き合っちゃってるし」 「え!?マジ!?なんだよその奇跡は」 マジか。空港で俺が涼太を連れてったせいで、タケル血迷っちゃったんだな・・・。かわいそうに。 「んで、今ふたり出張中じゃん?ヒマだし山田んちでも遊びに行こーかと思って待ってた。明日明後日休みだろ?」 タケルも一緒に行ってんのか。涼太そんなんひとことも言ってなかったじゃねーか。 ・・・・・・なんか腹立つな。 「・・・まあ、俺も暇だし別にいいけど。涼太いねぇから、なんかメシ買って帰んねーと」 「いいね。中華テイクアウトして、ビールも買って行こう」 「・・・・・・・・・って感じで、俺さぁ、おもちゃで開発中なんだよね、アナル」 「知らねーよ!きったねぇ話すんな!食ったもん出るだろ!」 宮野のアナル開発なんかコレっぽっちも興味ねえっつーの!マジ、ゲロ出るわ。 タケルと宮野のセックス事情を聞かされて、気分が悪くなる。 「そういえばさ、明日21時くらいには帰るって、さっきタケルくんから連絡来てたんだよね。涼ちゃんにも会いたいし、このまま山田んち居ていい?」 はあ!?マジかよ・・・。 自分のスマホを見てみるが、やっぱり涼太からの連絡は無い。 帰る時間くらい連絡入れろよ。こいつらでさえ、ちゃんと連絡取り合ってんのに。 涼太が、そういう事に几帳面じゃないのは理解している。・・・でも、なんだろう、俺ってそんなに気にもされて無い存在なのか?物凄く虚しくなってくる。 俺は無意識にスマホを握りしめていた。 「・・・山田、もしかして涼ちゃんから連絡無いとか?」 「・・・涼太はそういう事、いちいち連絡してくるようなヤツじゃねぇし。俺からもしないから」 「ふーん・・・」 強がってる、と宮野に思われているに違いない。 「ちょっとスマホ貸せよ」 宮野は俺の手からスマホをパッと取り上げ、俺の親指でロックを解除し、勝手に操作し始める。 「てめー、勝手に触んな。何やってんだよ!」 「うるさいな~。カッコつけてるだけのヤツは黙ってろよ・・・・・・・・・あ、もしもし、涼・・・・・・・・・・・・」 こいつ!涼太に電話掛けたのかよ! 「宮野!返せ!」 慌ててスマホを奪い返し、自分の耳元に持っていく。 「涼太、悪い。宮野が勝手に・・・・・・って切れてんじゃねーか」 「なんか、知らない男が出たんだけど・・・涼ちゃん追い詰めてるとかなんとか言って切れちゃった」 「・・・は?」 宮野の言葉を聞いて俺の頭に浮かんだのは、佐々木にキスされていた涼太の姿だった。 すぐに電話を掛けたが、繋がらない。 なんで俺が目を離すと、すぐにあいつはこうなるんだよ!? 今すぐにでも涼太の元へ行きたい。 だけど、アルコールが入ってるし運転は無理だ。こうなったらタクシーで・・・ 「山田、ちょっと落ち着きなって!」 「ああ!?誰がテンパってんだよ!?てめぇ抜かしてっとコロスぞ!」 行き場の無い不安と怒りを、宮野の胸ぐらを掴んでぶつけてしまう。 「落ち着けって!心配なのはわかるけど、タケルくんも一緒のはずだから・・・」 ピリリ・・・ 不意にスマホが鳴り、俺は涼太からだと直感して速攻で電話に出る。 「涼太!?」 『安心しろ。なんかされそうになったら、タマ潰して下水に流してやるつもりだから』 「・・・はは。こえーな、お前」 3日ぶりの涼太の声。不気味なほど冷静過ぎる口調。 ・・・これ、ブチギレてるな。こうなったらいくら佐々木でもさすがに手は出せないだろう。 安堵と涼太を恋しく想う気持ちが混ざり合って、心臓が痛い。 「・・・あんま心配させんなよ、マジで・・・」 なんでもない風を装いたいのに、涼太の声を聞いただけで、そんなちっぽけなプライドさえどうでもよくなる。 俺は涼太が大事で、唯一で、全てなんだ、と改めて突き付けられてしまう。 そんな俺に気付くはずも無い涼太は「明日な」と言って素っ気なく電話を切った。 ああ~、もっと声聞いてたかったな~。一瞬で明日の夜になんねぇかな・・・。 「あのさ、そろそろ離してくんない?」 「あ、悪い」 宮野を締め上げてたの、忘れてたわ。 服を掴んでいた右手を俺が離すと、宮野は呆れ顔をしながら皺が入った胸元を伸ばす。 「ほんと涼ちゃんの事になるとお前、狂人だね。犯罪者になんないようにしなよ?」 ・・・返す言葉が無い。 「悪かったよ。つい・・・」 「じゃ、泊まっていい?」 そういえばそんな事、言ってたな・・・。くそ、邪魔くせぇけど・・・。 「好きにしろよ」 「やったー!じゃあ涼ちゃんのベッド借りよっかな」 「誰が貸すか!お前は床で寝てろ!」

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