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第196話 特別 1

朝早く出勤していく青をベッドの上で見送り、痛くて重い体をなんとか起こす。 マジで酷い扱われようだな、オレ・・・。 自分の体だと思いたくないくらい、傷だらけで痣だらけで、精液塗れ。 こんなになってまで青と離れたくないとか、どうかしちゃってるよな・・・。自分が必死すぎて笑えてくる。 「バカみてぇ」 汚れたシーツを洗濯機に放り込んで、シャワーを浴びる。 自社の服を着て、他社のスニーカーを履いて玄関を出る。 スニーカーだけが違うブランドの自分の格好は、今のオレをそのまま表しているみたいだ。 他社の靴を履いていても、その足が向かうのは今の自分が所属している場所。 親父に反抗をしてみたところで、いずれ進まなきゃいけない道は決められてる。 きっとオレは青への想いを持ったまま、その道を進んで行かなきゃいけないんだろう。 オレが拒めば、美織に迷惑がかかるかもしれない・・・。もしかしたら、青の医者としての未来だって奪うかもしれない。 最悪、病院を継ぐのは仕方ない。にしても、見合いは納得いかねぇ・・・・・・・・・はあ。相手が男じゃないのが救いっちゃー救いなのか? 「涼太、おはよ~。待ってたぞ」 マンションの外へ出ると、雄大さんが、植え込みを囲んだベンチに座りタバコを吸っていた。 「待たなくていいですよ。おはようございます」 「冷たいなぁ。あんなに激しく俺の股間を弄ってきたく・せ・に」 「・・・・・・・・・ですね」 この人、全然懲りてねえ。まともに相手してたら疲れるだけだな。 雄大さんと並んで会社へ向かう。 「やけに素直だな。そういや、なんか昨日うるさかったけど・・・いくら角部屋だからって騒ぎすぎだぞ、反対側は俺が住んでんだからな。少しは遠慮しろよ」 「すみません。親が来てたんで・・・」 あちゃあ~。親父との口論、エキサイトしすぎたか。 「え~?親公認?すごいじゃん。そこまでとは思わなかったな」 「違いますよ。付き合ってんのバレて、猛反対されました」 雄大さんは「ふーん」と言ったきり、オフィスに入るまで無言だった。 仕事に集中出来ずに一日が終わってしまった・・・。 今日はダメだ。肉体的にも精神的にも疲労しすぎてる。さっさと帰って早めに寝よう。 「お先に失礼します。・・・・・・ぐえっ」 「ちょっと付き合え」 席を立ちバッグを肩にかけた瞬間、後ろから回ってきた雄大さんの腕に、首をホールドされてエレベーターホールまで引き摺られて行く。 「くっ、くるしーですって!」 「いいから付き合え。セクハラしないから」 連れてこられたのは、マンションと逆方向に歩いて5分程の所にある焼肉屋。 「好きな物食っていいぞ」 タッチパネルのメニューを差し出してくる雄大さん。 「・・・はい。ありがとうございます」 メシ連れてってくれるなら最初からそう言えよ。無駄に抵抗して、疲労がさらに蓄積されたじゃん。 注文した肉がテーブルに運ばれて来て、雄大さんが七輪の上に乗せていく。 「なんだよ、カルビとロースしか頼んでないのか。ほんと子供舌なヤツだな。せめてタンくらい頼んでくれよ」 「好きな物食っていいんでしょ。食べたいなら自分で頼んでくださいよ」 「かわいくねー!・・・でもその方が俺は好きだな。しおらしい涼太は見てて楽しくない」 あ・・・。もしかしてオレが元気無いの、心配してくれたのか・・・? 「親の猛反対が堪えてんのか?」 「・・・まあ、認めてもらえるとは正直思ってなかったですけど、ここまで反対されるとも思ってなかったんで。手強そうだな、と」 そこからは雄大さんの誘導尋問にのせられて、いつの間にか洗いざらい話すハメになってしまった。 「見合いねぇ。お前、何にも考えてないようで実は結構、周りに気遣うもんなぁ。見合いなんてさせられたら、断れなさそー」 見破られている。さすが雄大さん。 「どうしても結婚しなきゃいけないんだったら、ぶっちゃけ相手は誰でもいいんです。でも、青と離れたくない」 「お前、不倫希望かよ。可愛い顔して酷いヤツだな。それって、奥さんにも青くんにもツライ思いさせるんだぞ?」 う・・・、それを言われると・・・。 「だって、どうしても青と別れたくないから・・・」 ダメだ。疲れてるせいか、思考まで弱々しくなってる。雄大さんに相談してるなんて情けねぇ・・・。 「俺なら不倫でもなんでも付き合ってやるのに」 「雄大さんじゃ意味無いですよ。青がいいって言ってるじゃないですか」 「そこまで涼太に想われてるなんて彼が羨ましいな」 焼けた肉をオレの皿にのせてくれる雄大さんの優しさに、少しだけ救われた気分になる。 「・・・雄大さんは、好きな人とかいないんですか?まだ美織を引き摺ってます?」 「お前なぁ・・・。ほんっとに・・・怒りを通り越して呆れるわ・・・残酷過ぎるぞ」 「?・・・ああ!すみません」 美織なんか引き摺るような人じゃないか。 「わかんねぇよな、豆柴には。相手しか見えてないのは青くんだけじゃなかったか・・・。彼に捨てられたら俺が慰めてやるよ。それだけ覚えとけ、駄犬」 「ありがとうございます。そしたら死ぬほど肉食わしてくださいね」 「・・・・・・・・・・・・・・・はあ」 雄大さんは呆れたような恨めしそうな、なんだか複雑な表情でオレをじーっと見て、溜息を吐いた。

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