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第6話(最終話)
「…っぼ、僕のこと、好き、なの?」
思わず言葉が、零れ落ちていた。
「うん。大好きだ」
優大は柔らかい眼差しでじっとこちらを見つめて、はっきりと答えてくれた。
どうしよう。嬉しい。
でもやっぱり不安だ。
「……一緒にいて、いいの?」
「いて欲しい」
「ほんとに?嘘じゃない?」
「嘘じゃないよ。信じてくれるまで何度でも言う。君が好きだ。そばにいて欲しい」
目の奥がツンとする。 優大が繰り返しハッキリと言ってくれる言葉が、気持ちよくて堪らない。
……ああ……もう……ダメだ。
泣くつもりなんかないのに、目がじわじわ熱くなって視界が霞む。腕をゆるめ、恐る恐る顔をあげて優大を見つめると、彼の目からも涙が零れていた。自分を見つめるその潤んだ眼差しが優しい。まるで大切なものを見るようなその眼差しが。
「僕も、あんたのこと、好きになって、いいの?」
優大の目がくしゃっと細くなる。その目尻から涙がひと筋、伝い落ちた。
「好きになってくれたら、嬉しいよ、透くん」
「くん付け、要らない。透って、呼んでよ」
「じゃあ、俺のことも名前で呼んで。優大って」
透は、口を開きかけ、ためらった。
ずっとその名前を呼んでみたかった。でも自分みたいなヤツが、この綺麗な名前を呼んではいけないと思っていた。
「……透?」
優大が不安そうな目をして首を傾げる。透は大きく息を吸い込んでから
「ゆ、優大。好き……。優大。……優大」
噛み締めるように何度も、呟いてみた。
初めて呼んだその名前は、やっぱり優しすぎて眩しくて、ちょっと気後れしてしまう。
でも、呼んだ瞬間の優大の顔が、すごく嬉しそうで、幸せそうで。こんなにも眩しいくらい彼が微笑んでくれるなら、どうしようもない自分の人生にも、もしかしたら意味があるのかもと思えてくる。
優大が自分を抱き締めたまま、そろそろと立ち上がった。
「帰ろう、透。俺たちのアパートに」
透はこくんと頷くと、伸び上がって優大にキスをする。 今の自分の精一杯の心を込めて。優大は両腕を掴んで引き寄せ、しっとりと押し包むようにキスに応えてくれる。
初めて好きになった相手とのキスは、すごく甘くて、ちょっぴり塩辛い涙の味がした。
ー完ー
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