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ゆうじと里帰り-4

色とりどりの花が咲き乱れている見慣れた庭を、2人で手を繋いで歩く。きょろきょろしながら半歩後ろを歩くりつの顔は強ばって見えた。繋いだ手に込められた力に、今りつがどれほど勇気を出しているのか痛いほど伝わってきて小さく息を吐く。 実家に帰るのにこんなに緊張するのは初めてだ。 ゆうじもりつの小さな手をしっかりと握り返し、自分の心も落ち着かせるように親指の腹で滑らかな手の甲を撫でた。 花の道を抜けて、見えてきたアイボリーの玄関ドア。その前にしゃがみこんで、プランターの手入れをしている背中。太陽の光を受けて輝くように光るブロンドが、2人の足音を聞いてふわりと振り返った。 「おかえり〜。よく来たわね〜。」 少し弾んでいる耳慣れた懐かしい声。 エプロンについた泥を払いながら、柔らかい笑顔で2人を迎えたのはゆうじの実の母親だ。 「ただいま、母さん。寄り道してたらちょっと時間かかった。」 「あら、そうなの。あ、」 自分と同じ、海のように深い青色の瞳がゆうじの腰元へと視線を落とした。りつの纏う空気がピンと張り詰めるのを感じる。 両親にはりつの抱えている事情を事前に話していた。母は、怯えているりつと目線の高さを合わせるように膝を折る。 「貴方がりつくん?」 声をかけられて、ぴたりと固まってしまったりつ。 「はじめまして。」 「…っ、あ…、ぁ…」 日々かかりつけの医師や、りつを支えてくれるたくさんの人と触れ合っているが、それでも新しい人に会うとどうしていいか分からなくなるらしい。 「あんまりジロジロ見ないでやって。まだまだ子猫みたいなもんだから。」 ゆうじは苦笑しながら、涙が滲み始めたりつの目を片手で覆った。 想像していたよりも、りつが怯えている。純粋なカナダ人の母を見て何か感じたんだろうか。 唇を強く噛んでいる姿が見えて、そのままりつを抱え上げた。 「あらごめんなさい。とっても可愛いから天使が来たのかと思ってついね。」 「移動も長かったし、疲れてるのかも。」 そのまま首元に顔を埋めてしまったりつに、「ごめん。」と口パクで伝えると、母は相変わらずの笑顔で首を振る。 「いいのよ。ゆっくりしていってね。」 「父さんは?」 「部屋にいるみたい。無理して顔見せなくてもいいからゆっくりしていきなさいって伝言よ。」 「…、そっか。ありがとう。」 それはきっと、父親から虐待を受けていたりつへの配慮。数年前に会ったきりの大きな背中を思い出して、胸が温かくなった。 「じゃありつ、中で休もうか。」 まだまだりつのその記憶はなくならないけれど、それでも君はこんなに優しい世界にいるんだってことをいつか気付いてくれるだろうか。

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