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silent dream(忍足×跡部)
「――吾、景吾」
「……ん、」
夢を見ていた。いつの間にか眠っていたらしい。
「起きた?」
心配そうに顔を覗き込んできたのは忍足だった。
「……わりい」
起き上がろうとして抱きかかえられた。
「別にええよ、無防備な姿もかわええし」
にっこり笑うこいつに、俺はいつも染められる。
「……ヘンタイ」
「そのヘンタイが好きなんは誰なん?」
……俺、ですけど。むくれていたら、忍足は苦笑して俺の髪をクシャクシャと撫でた。
「体、大丈夫なん?」
「ああ」
「ちゃんと寝とる? ちゃんとご飯食べとる?」
「大丈夫だ……ただ、夢を見ていた」
「ユメ?」
「ああ……俺達が初めて会った時のユメ……」
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二年生の、夏直前。
「大阪から来ました、忍足侑士です。よろしゅう」
クラスメートの耳にはおそらく初耳に近いであろう、聞きなれないイントネーション。中途半端な時期の転校生。しかも、丸いメガネをかけて、少し長めの髪を靡かせて室内に入ってきた彼の姿はとても印象的。
すぐに行われた中間テストで、主席の跡部と数点差で学年二位に入り、テニスでは推薦でやってきただけにランキング戦で二位に入る。
そして、それはあっという間に全校に広まった。
《氷帝の天才》と……。
「何が『天才』やねん……むっちゃ腹立つわ……」
その日の練習が終わって、忍足はため息をつきながら部室に入った。バタバタした転校だった為、正式な入部扱いが受けられず、暫くは先に帰ることになっていた。
「転入早々陰口か?」
「わっ……えーっと……跡部?」
「ああ」
切れたガットを換えに来たのか、使い物にならなくなったらしいラケットを手にして、入り口に跡部が立っていた。
「過去のデータを、監督に見せてもらった。関西(あっち)では、あれが普通か?」
「別に……そんなんやないけど」
「こっちの人間は、過去のお前を知らない。だが……まあ、俺様にも出来ないだろうな、あれは」
「さよか……おおきに」
「別に、『天才』の異名のひとつくらい持っててもいいんじゃねえの? ここは実力主義だからな……歓迎するぜ、忍足」
そのときの跡部の微笑みは、今までに類を見ないきれいさだったと、忍足は思い出す。
(もしかしたら、このとき既に落ちていたのかも知れん)
何事にも不動だった自分が、しかも男相手に。
(かっこ良かったもんな……忍足)
跡部もまた、自分がこんなに女々しくなるとは思わなかった。
(めっちゃ幸せや)
世間は冷たい目で見るけど。
(俺様が、この国を変える)
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「おし……侑士」
「ん?」
「俺、侑士に会えてよかった」
「おれもやで」
「必然……だったんだよな……?」
「やとええな」
「ん」
ぎゅ、と抱きしめる力が強くなった。
「な、侑士、俺様が絶対、同性愛認めさせてやる。侑士が恋人だって、堂々と言えるように……!」
不敵の笑み。忍足が好きな、きれいな表情。
「俺様に不可能なんかねえよ」
まだ、親の保護が必要な未成年だけど。
思考は、大人なんかに負けない。
いつか、この世界を変えよう。
一緒に。
二人の静かな夢物語……。
end
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