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silent dream(忍足×跡部)

「――吾、景吾」 「……ん、」  夢を見ていた。いつの間にか眠っていたらしい。 「起きた?」  心配そうに顔を覗き込んできたのは忍足だった。 「……わりい」  起き上がろうとして抱きかかえられた。 「別にええよ、無防備な姿もかわええし」  にっこり笑うこいつに、俺はいつも染められる。 「……ヘンタイ」 「そのヘンタイが好きなんは誰なん?」  ……俺、ですけど。むくれていたら、忍足は苦笑して俺の髪をクシャクシャと撫でた。 「体、大丈夫なん?」 「ああ」 「ちゃんと寝とる? ちゃんとご飯食べとる?」 「大丈夫だ……ただ、夢を見ていた」 「ユメ?」 「ああ……俺達が初めて会った時のユメ……」 **************************************************  二年生の、夏直前。 「大阪から来ました、忍足侑士です。よろしゅう」  クラスメートの耳にはおそらく初耳に近いであろう、聞きなれないイントネーション。中途半端な時期の転校生。しかも、丸いメガネをかけて、少し長めの髪を靡かせて室内に入ってきた彼の姿はとても印象的。  すぐに行われた中間テストで、主席の跡部と数点差で学年二位に入り、テニスでは推薦でやってきただけにランキング戦で二位に入る。  そして、それはあっという間に全校に広まった。  《氷帝の天才》と……。 「何が『天才』やねん……むっちゃ腹立つわ……」  その日の練習が終わって、忍足はため息をつきながら部室に入った。バタバタした転校だった為、正式な入部扱いが受けられず、暫くは先に帰ることになっていた。 「転入早々陰口か?」 「わっ……えーっと……跡部?」 「ああ」  切れたガットを換えに来たのか、使い物にならなくなったらしいラケットを手にして、入り口に跡部が立っていた。 「過去のデータを、監督に見せてもらった。関西(あっち)では、あれが普通か?」 「別に……そんなんやないけど」 「こっちの人間は、過去のお前を知らない。だが……まあ、俺様にも出来ないだろうな、あれは」 「さよか……おおきに」 「別に、『天才』の異名のひとつくらい持っててもいいんじゃねえの? ここは実力主義だからな……歓迎するぜ、忍足」  そのときの跡部の微笑みは、今までに類を見ないきれいさだったと、忍足は思い出す。 (もしかしたら、このとき既に落ちていたのかも知れん)  何事にも不動だった自分が、しかも男相手に。 (かっこ良かったもんな……忍足)  跡部もまた、自分がこんなに女々しくなるとは思わなかった。 (めっちゃ幸せや)  世間は冷たい目で見るけど。 (俺様が、この国を変える) ************************************************* 「おし……侑士」 「ん?」 「俺、侑士に会えてよかった」 「おれもやで」 「必然……だったんだよな……?」 「やとええな」 「ん」  ぎゅ、と抱きしめる力が強くなった。 「な、侑士、俺様が絶対、同性愛認めさせてやる。侑士が恋人だって、堂々と言えるように……!」  不敵の笑み。忍足が好きな、きれいな表情。 「俺様に不可能なんかねえよ」  まだ、親の保護が必要な未成年だけど。  思考は、大人なんかに負けない。  いつか、この世界を変えよう。  一緒に。  二人の静かな夢物語……。 end

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