2 / 96
二秒で拒絶
「じゃあさ、ラインのIDならよくない? ねぇ、だめ?」
なにがどうなったら、ラインのIDならオッケーになるんだろう。もっともいやだよ。教えたら最後、長文メッセージ、スタンプ攻撃、どうして既読してくれないの? からの未読スルーなんてひどいの嵐。地獄だ。地獄しか待っていない。
前方にスマホ片手にじりじり迫ってくる見知らぬJK、後ろはトイレの扉。どうあがいても逃げ場がない。こういう状況になると、なにもかも考えるのをやめたくなる。地球のパワーで俺を大気圏外に追放してくれないかな。そうしてくれたら、そのうち神谷旺二郎 は考えるのをやめた、的なナレーションが入って俺の物語は終了するのに。
今日は朝からアンラッキーの連続だった。
スマホの充電を忘れたせいで、アラームが鳴らなかった。アラームが鳴ってもうだうだ布団の中で暴れて起きられないのだから、アラームが鳴らないイコール遅刻確定。ばあちゃんが「旺二郎、今日は随分とお寝坊さんですね」と起こしてくれなかったら、今日一日布団と仲良くしていた。いっそそのほうがよかったかもしれない、なんて今になっては思う。布団と仲良くしていたら、JKに絡まれることもなかったのだから。
遅刻確定でじたばたしてもしょうがない。ゆっくり朝ごはんを食べるかとばあちゃんが作ってくれたナスのお味噌汁をすすっていたら「ごめんなさい、最下位はてんびん座のあなた! 今日は一日アンラッキー!」テレビから聞こえてきた占いコーナーでまさかの最下位。さいあくだ。せめてラッキーアイテムを聞いておこう。
「今日のラッキーアイテムはランドリーバスケット!」
らんどりー、ばすけっと。ランドリーバスケット。いわゆる洗濯物をいれるあれ? どうやって身につけろって言うんだろう。無理じゃないか。今日はカバンをランドリーバスケットにしたらいいの? いっちゃんあたりに「旺二郎攻めてるね。そのファッションは最先端すぎて時代が旺二郎に追いつかないね」ってからかわれる。リモコンを手にとりそっとテレビを消した。
やっぱり今日のカバンはランドリーバスケットにしたほうがいいのか。いっしゅん頭によぎったけれど、あまりにも最先端すぎる。スマホ、モバイルバッテリー、弁当をいつもどおりカバンにつめこみ、ばあちゃんに「行ってきます」と声をかけ、家をでた。家から学校までは徒歩十分。さすがにこの短時間でアンラッキーなできごとは起きないはずだとのんきに歩いていたら、前方に元カノが先輩らしき男と腕を組んで歩いていた。
さいあくだ。元カノに未練があるわけじゃない。だけど、さいあくに気まずい。ねぇ、遅刻決定なのにどうしてのんきに歩けるの。もっと早く歩こうよ。イチャイチャしている場合じゃないよ。そう言ってしまえばよかったけれど、そんな度胸は俺にはない。
そうだ、俺は木。木なんだ。木になりきって、心を無にしよう。そうしたら、二人を通りすぎることができる。息を殺し、無表情で、早歩き。木というよりむしろ忍者。任務を遂行するためなら手段を選ばない忍者だ。オーラを消していざ早足で二人を通りすぎ――ようとしたけどバッチリ元カノに「神谷くんおはよう!」と声をかけられ、三人で登校した。死ぬほど気まずかった。俺と現彼氏が。元カノ自重しよう。
ともだちにシェアしよう!